しかし、昂った緊張感の中で一度ため息をつくと、
これほど安楽な世界は無いことに気付く。
これは、物質的な富の獲得とともに失った精神性を省みる試みである。
それゆえむしろ聴く事を苦痛に感じる音楽ということも出来るかもしれない。
5曲のアレンジとギターを担当しているBrandon Ross。アルト・サックス奏者Henry Threadgillのサイドメンを勤めたこともある、フリー/コンテンポラリー系ギタリストですが、この人の非常にユニークな才能がこの作品に多大なインスピレーションを与えています。変則チューニングを含む各種アコースティックギターを駆使した、美しくかつざらざらした、クールでありながら青い炎をイメージさせるような情熱を秘めたパフォーマンス。Rossのこのような演奏は(私の知る限り)、引き続き彼がアレンジを担当したCassandraの次作 "New Moon Daughter"と本作以外では聴けません。
Ross以外にもCharlie Burnhamのすすり泣くようなヴァイオリン、Olu Daraの呻くようなコルネット、Don Byronのユーモラスながら物悲しいクラリネットなど、知っている人には堪らない超個性派ミュージシャンたちの競演が光ります。フォーク・ロック系シンガーソングライターChris Whitleyがトラック12で熱くかき鳴らすリゾフォニック・ギターのボトルネック奏法も必聴。
これだけの才能を人選しまとめあげたのは、プロデューサーCraig Streetの手腕、でしょうか。録音も最高です。