プラトンについての解説は,他の多くのプラトン入門書と同様にイデア論が中心であるが,イデアを「典型のイデア」と「あずかりのイデア」の二本立て把握しているのが興味深かった。著者はプラトンの中期から後期にかけてのイデア論の変化のなかで,典型のイデアに重心を移すと考えているようだが,個人的には,むしろあずかりのイデア論をもっと詳細に展開してほしい気がした。
プラトンの宇宙(生成)論についての記述が少ないのと,プラトンの人間論について,まとまった記述がないのが不満に思えたが,これは他の入門書についてもいえることで,プラトン自身がそういったまとめ方になじまないのかもしれないが,どうなのだろうか。
岩波新書の藤沢氏のものとくらべると,こちらのほうがとっつきやすいと思われるが,解釈の緻密さでやや劣る気がする。