深い薀蓄の中を歩く
★★★★★
江戸・明治の頃の本と、文人・学者・政治家などの話題を、
ごく短い文章で書き連ねた随想集。
数行ずつの文章を5つか6つ重ねてひとつの話題とし、
その話題がつながったり断ち切れたりしながら、ずっと続いていく。
まるで森の中を歩くように、さまざまな話が現れては通り過ぎていく。
歴史や文学、漢文や俳諧などの素養に溢れた著者の
一人語りを聞いていくのは、
読む側にもある程度の素養がないとなかなか大変な作業だが、
それでいて意外とすらすらと読み進めることができるのが不思議。
短い文章の羅列は摘み読みするのに最適だし、
これは難解と思われる話題は飛ばしてしまって、
後から戻って読み直してみると案外面白かったりする。
読んでしまえば忘れ去ってしまいそうなごく小さな話の中に、
鮮やかな印象となって心に残るエピソードがある。
ちょっと前までの人たちが持っていた教養、
大量の本を読み続けてきた人の中に積み重ねられた薀蓄というものに触れ、
薄っぺらな自分の頭の中が冴え冴えとしていくような気がする。
これが読書の快楽というものなのだろうか?