レジスタンス映画の名作という訳にはいかないが・・。
★★★★☆
ヨーロッパのレジスタンス運動というとこれまでは自由フランスやベルギーがよく知られていたが『誰がため』の舞台がデンマークというのは興味深い。ワイダの『カティンの森』やこの『誰がため』などを見るにつけ、ヨーロッパの小国と云われる国々の悲劇が実感される。また描かれる活動がサボタージュなどの不服従でなく暗殺が中心だという点も追いつめられた状況が見るものに迫ってくる一因だろう。いまでこそレジスタンスとテロリズムの境界が曖昧となっているが、ナチスドイツ占領下のデンマークにおける活動は勿論レジスタンスであり、彼らの殺人という行動も正当化される。戦争の是非は問えても彼らの罪悪感の有無などを現在の価値観で見ても仕方ないのである。ただ映画でも描かれる組織自身の持つ誤謬性はいまにおいても普遍的と云えるかも知れない。登場人物ではシトロンを演じるマッツ・ミケルセンがいい。妻子の行く末を案じる、脂汗を常に浮かべた暗殺者、なかなか秀逸なキャラクターであり演技だと思う。暗殺場面も良く出来ており136分という長さがあまり気にならずに楽しめた作品。とはいえレジスタンス映画としての出来は一連の名作『死刑執行人もまた死す』(43年)『無防備都市』(45年)『鉄路の戦い』(46年)『海の沈黙』(47年)『地下水道』(56年)『影の軍隊』(69年)などと比較しては可哀そうである。とりわけ活動の厳しさ、恐ろしさ、無力感が皮膚感覚として伝わってくるJ=P・メルヴィル『影の軍隊』は素晴らしく、虚構が実話を凌駕する好例であろう。未見の方はぜひご覧下さい。
絶対的な正義とは
★★★★★
(作品内容の詳細にやや踏み込んだ表現がございます。結末は明記しておりませんが未見の方は特にご注意ください。)
余り知られていない1940年代ドイツ・ゲシュタポ侵略下デンマークのレジスタンス組織の人物描写を軸に創られた秀作。
本作の中心人物となるレジスタンス組織員の二人フラメンとシトロンはデンマークでは英雄視されている実在の人物。当初は
純粋な愛国心と正義心からナチス軍人や親ナチス派のデンマーク人を殺戮していた彼らも、組織の情報漏洩に発する上層部
や同志への信頼感の揺らぎから、自分達の行動に対しての正当性への確信を失っていく。その心情の変化を、決して派手で
はないが、緊張感を失わない絶妙なテンポで淡々と魅せる演出・映像の巧みさと俳優陣の演技が光る。
そんな殺伐とした毎日を繰り返していた彼らにも心の拠り処があった。フラメンにはケティという素性不明の女性、シトロンには
愛する妻と娘だ。しかし物語は彼らの唯一の安堵の場所をも奪い追い詰めていくような過酷な方向に傾き…これ以上は是非
作品をご鑑賞頂きたい。
作品を観終わったとき、結末に対して不思議な程感傷的になることはなかった。代わりに何とも言えない深い余韻を残し一つ
の大きな疑問が生まれた。「絶対的な正義・正論とは何か」と。
勿論世界史的に見ればデンマークを侵略したゲシュタポは「悪」の存在で、レジスタンス組織を含むデンマーク国民側は「犠
牲者」だ。しかし個人的な印象として本作はどの人物に対しても観賞者側からの過剰な感情移入の余地を許さない描写を意
図的に行っている様に感じる。(台詞量の少なさ・感傷的なBGM群の大幅なカット等の観点から)
主役の二人が銃殺した者の中には、誤解とは言え罪のない人々も含まれているし、二人がケティや家族等、自分の平安の場
所を守りたいという個人感情で人に銃を向ける場面も見受けられる。もはやそれは「国の正義」の為の行為とは言えまい。
本作の結末は、決してゲシュタポ侵略行為のみでなく、それを発起点にした被侵略国デンマーク国民の様々な行為(親ナチス
派の誕生・レジスタンス組織員の密告行為、上層部の汚職・主役二人に近い人々からの彼らの行為の無理解…)が連鎖した
結果として起こったものだ。例えば家庭を顧みる余裕の無いシトロンから心が離れていく妻。シトロンも不憫だが、妻の立場で
考えればより安全で安定した生活を望むことは極めて真っ当な考えだ。全編暗色のシーンが多い中、一面鮮やかな水色が美
しい海辺にて車中で娘の誕生日を夫婦で慎ましく祝う余りに悲しいシーンは忘れられない。
戦争をテーマとした映画では「善対悪」の二項対立の構図が明確なものが多いが、今作は登場人物の各々が戦争という特殊
な事情下、自己防衛の為に選択した行動の相違・反発の連鎖が主役の二人にどういう運命をもたらしたかを描いた作品であ
り、特別ゲシュタポへの強い憎しみを表現するために創られた意図は感じられなかった。極論すれば作品中に絶対的な善人
・正論者は存在せず、どのような思想の食い違いからも本作と同じ事態はいつ何処でも発生し得る、という製作者の啓発にも
思え、恐ろしいが大変意義深い余韻が残った。個人的には強く推薦したい作品である。
「誰がため」を、やっと観る事が...
★★★★★
デンマーク版の「影の軍隊(1969仏)」。デンマーク人にはよく知られている二人で、レジスタンス組織についても多くを語る必要が無いのかも知れないが、その部分がやや希薄で残念。ナチスドイツ占領下のヨーロッパ各国で、それに手を貸す新ナチ派が如何に多かった事か。ナチスの台頭を許したのは、ドイツ国民だけでは無い事がよく判る。当時の英国首相チェンバレン等が進めた宥和(見て見ないふり)政策が無ければ、あの様に悲惨な大戦は起きなかったかも知れない。断固糾弾されるべきだった。侵略され、占領された事の無い日本で生まれた我々が、この様な抵抗運動に身を投ずる事が、果たして出来るだろうか?映画は、ノルマンディー上陸作戦(1944.06.06)の直前から始まり、デンマーク解放直前、「影の軍隊」と同じく、女の密告・裏切りによる二人の死で終わるが、解放目前のレジスタンス内部の権力闘争と戦後への思惑が、必要とされなくなった二人の死を決定付けた訳だ。トラックの荷台の上の二人の死骸を弄ぶ場面には、人間の業の深さを思い知らされる。実話を前に、この映画の見所がもう一つあると言ったら怒られるかも知れないが、二人の愛用する拳銃にはハッとさせられた。特にフロメン(ベント)の使用するのが、ジョン・ブローニングの最初の成功作で、ベルギーのFN社で製造されたM1900である事だ。後座スプリングが銃身の上に設けられた特徴的な初期の自動拳銃で、アップや発砲場面が多いので、一寸ドキドキ。ヨーロッパでベストセラーを記録した拳銃なので、44年後のレジスタンスの闘士が使用しても何の不思議も無いのだが、如何にも渋い。映画で活躍するのは、これが初めてではないだろうか?シトロン(ヨーン)の銃が、ルガーP08の6インチ・マリーネ、ベントを負傷させるナチス将校の銃がワルサーPPで、何れも発砲場面は珍しい。シトロンが包囲され使用する短機関銃は、フィンランドのスオミ。地理的条件と歴史的背景を感じさせる選択と言える。第二次大戦後65年が経過したにも拘わらず、最近になって戦争映画の佳作が年1〜2作制作される様になって来た。これは、軍靴の響きがまた聞こえ始めて来そうな時代への、警鐘なのかも知れない。
傑作
★★★★★
レジスタンスものには数多い作品がありますが、これはちょっと異色。
というのも「人をどれほど信じられるか」に焦点をあてたから。
暗い色調をもちい、台詞も多くを語らないという独特の演出。
ベルイマンのようなテンポも感じて、北欧風だなあとおもいました。
正義と非正義の境目もあいまいで、主人公は苦しみ抜いて死んで行く。
レジスタンスの本場フランス映画とは、ずいぶん異なります。
この差異が実際のデンマーク社会にあったものなのか、
それとも監督が意図した創作なのかわたしには分かりませんが、
裏切り者がかならずいるのがこの世界。
真実に迫ろうとした気迫は感じました。
見応えありました。
もう1時間ながくてもみれました。
ハラハラ、ドキドキの2時間です!
★★★★★
まず、主人公2人(フラメンとシトロン)を中心に、事実を忠実に再現している内容の濃さに驚き!
レジスタンス活動のグループで、2人はナチの活動を妨害するために、暗殺を実行するのだが、自分たちが行っている事に疑問を持ち始める。
グループ内に2重スパイがいるのだが、誰が寝返っているのか、グループ内で疑心暗鬼になる。これが事実である事、グループ内での軋轢に迷い始める2人。これは、下手なサスペンスを超えており、物語は淡々と進んでゆく。視ていて、こんなに手に汗を握る映画は、かつて無い事である。
この2人はバラバラになり、病院と親もとに隠れる。しかし、彼らが潜伏している場所の情報をナチに教えると、高額な懸賞金を貰えるという状況で密告され、2人とも多数のナチの軍隊に隠れ家は見つかり、1人は最後まで戦い、「明日に向かって撃て」の最後のように、多数のナチ軍に集中砲火を浴び、もう1人は、毒の入ったカプセルを自ら呑み自殺する。こんなにも神経をすり減らす戦いを実行する熱意に、国を思う心に感服する。
事実は小説よりも凄い!大絶賛です!!