働いたら負け!!
★★★★★
働かざる者食うべからず、と未だに言い続ける人間がいるとは驚きです。少し歴史をふり返り、現実を顧みればこの言葉がどれだけ胡散臭いかを痛感するはずなのに、なぜそんなにも短慮なのでしょう。
著者は働かないことこそ、浪費をすることこそ威信を高め、名誉を維持するために必要なことであり、せこせこ働き浪費を避けるものは劣っていることを示す証しであると説きます。むしろ高い社会的地位を確保するためには無理をしてでも不釣り合いな消費を行い、自分はこれだけ持っている、これだけ気前がいいということを示さなければならないのです。それは権利ではなく、義務であり、それは正に「働いたら負け」なのです。
本書を読み進めば、著者が示す見解は旨いものを食い、いいものを着て、時間をかけて遊ぶという義務の存在を浮かび上がらせてくれます。人が労働という名で捉えるものは対象の置かれている立場で違ってくるものです。そんなごく当たり前のことを忘却し去っている被虐志向の労働原理主義者達にいつまでも踊らされていたのでは、労働よりもはるかに重要なはずの生存が疎かにされてしまうでしょう。社会の中で場所を占め、誇りを持って生きるのに労働は全く関係ない。著者は椅子を動かす役人がいなかったため火にあぶられて大火傷を負った王の話を引いていますが、人それぞれに求められたと信ずる義務を果たそうと生きているのに貴賎はない。それを自分の信ずる義務と違うからと軽んずるのはあまりにも傲慢。「当然」に覆われた現実をえぐりだす鋭い慧眼が本書の最大の魅力であると思います。最後に始めの問いへの回答を本書より引いて。
「犯罪によって多額の富を手に入れた泥棒や詐欺漢は、こそ泥棒たちよりも法律の厳罰をまぬかれる機会が多い」なるほど、だから似非道徳家どもは貴方の語る当然の原理に気づかないのですね。
「人間」を見つめた経済学
★★★★☆
経済学は数学を駆使するだけの学問ではない。例えば私たちが日常生活の中で、寿司屋やうなぎ屋に入って松竹梅のランクの中から選んで注文するという場面になったとき、そこで梅を注文する人はあまりいない、というようなことを19世紀末に考察して論じたともいえる書。長いこと変わり者の奇矯な言説として異端視されてきたことにむしろ感慨を覚える。
ヴェブレンって?
★★★☆☆
誰もが分かる(デコードできる)ブランドを「旧ヴェブレン財」といい、分かる人しか分からない(デコードしづらい)ブランドを「新ヴェブレン財」と言う。などとマーケティングの本に出ているヴェブレンのいわゆる古典である。顕示的消費(conspicuous consumption)を経済活動の中核に捉えた本著を読むことは、消費加熱な現代をクールに見つめてみるきっかけになるのではないだろうか。
必読の書
★★★★★
世界大恐慌を予見しつつ其れを見ることなくこの世を去ったヴェブレンの代表的な書物である。有閑階級は必要な消費以外に人に見せびらかすための消費を行うとする顕示的消費について鋭い考察と展開をしている。バブルで踊らされた我々が今一度読み返すべき書物である。しかしながらこの本が再販されたのがバブル崩壊後だと言うことが悔やまれる。もっとバブルで浮かれていた時にこそ読まれるべき書物であったと思われる。然し、今でも示唆に富む書物であり、現代の我々に指針を与えてくれる書物である。