明治維新まであと5年という幕末の日々。品川の遊郭で大判振るまいの佐平次(フランキー堺)は実は一文なしで、居残りとなって腰を落ち着けることに。もう一組の居残り組は高杉晋作(石原裕次郎)をはじめとする勤王の志士たち。佐平次は彼らと仲良くなり、やがては廓(くるわ)の人気者になっていくが…。
川島雄三監督の代表作ともいえる傑作時代劇コメディ。落語の『居残り佐平次』をベースに『柴浜の革財布』『品川心中』を挿入させたストーリーを、太陽族やヒッピーなど当時流行した風俗とも照らし合わせながら、キレの良いテンポみなぎる演出で見事に描きこんでいる。全編軽快な中、時折ふとのぞかせるニヒリズムもぞくぞくさせる。個性的面々の好演も面白く、主演フランキー堺はキネマ旬報男優賞を受賞。(的田也寸志)
日本映画の傑作
★★★★★
15年ぶりくらいに見たのですが改めて見ると完璧な映画ですね。これを撮った監督さんは早世してしまったそうで残念です。映画や音楽はどんどん新しいものが出てきて、新し物好きの日本人は古いモノには目もくれませんが、良いものには古いも新しいもないと思いました。
幕末太陽伝
★★★★★
フランキー堺のコメディですがオープニングは電車の画面から、ちょい役に石原裕次郎ほかにもいろいろな要素を織り込んだ面白い作品です。
「戦後」は終わっていない
★★★★★
この映画は傑作である。
だから下記は作品にいちゃもんをつけるとかいう筋合いのことではなく
何度も見直して、今この瞬間に自分は作品から何を感じるかということのメモです。
フランキー堺演じる佐平次は、作中数回こう語る。
「ひとをあまり信用ちゃあいけませんぜ」
彼の人生観や世界観は、このひとことに
凝縮できるかもしれない。
すべてが不確かな中で、生き延びるためにどうするか。
環境と状況をあくまでクールに観察して
利用できる情報は全て役立てよう。
しがらみと思えることからは常に距離を置こう。
この思考形態はどこから生じたのか。
「敗戦」から、としか思えない。
日本がアメリカに本当にとことん粉砕されたこと。
そのことを周囲の日本人が正面から受け止めようとはせず
卑屈さとごまかしの中で生活を始めたこと。
川島雄三のニヒリズムは根が深い。
映画の中で幕末のこととして遠景に描かれる「異人館焼打ち」が
反米闘争の表現でなくて何だろう。
しかし主人公は闘争にかかわる気持ちは全くなく
ただ逃げ続けるだけである。
今も日本人の胸にある「頼りになるのは自分だけ」という
実は何の根拠もない思想を具現化して見せる映画なのだと思う。
軽快なテンポが心地よい時代劇の傑作コメディ
★★★★★
昭和32年7月14日封切作品。日活全盛期におけるスターが綺羅星のごとく画面に登場する魅力的な映画です。落語に題材をとった脚本の良さもありますが、軽快なテンポと歯切れのよい演出など、50年以上経ってもその素晴らしさは明瞭に伝わってきます。モノクロですが、きめの細かい映像で観賞に不自由はありません。
コメディでありながら、ラストシーンは病気に侵され、日活の首脳陣と上手くいっていなかった伝説の名監督・川島監督(当時39歳)の気持ちをフランキー堺(28歳)のセリフと動きに込めているのでしょう。
フランキーの好演といいますか、怪演に圧倒された映画なのは間違いありません。史料を元に復元した相模屋を所狭しと動き回るフランキーの動作がこの映画のスピーディーさを物語っています。他の俳優(大スターばかりですが)の若さあふれる演技も魅力的です。
南田洋子(24歳)と左幸子(27歳)が相模屋の中庭で激しい取っ組み合いから2階へ駆け上がるシーンは名場面でした。助監督の今村昌平(30歳)の采配が光るシーンです。
ちょんまげ姿が珍しい石原裕次郎(22歳)、小林旭(18歳)、岡田真澄(21歳)などは凄く若い時から大スターだったわけですね。二谷英明(27歳)も渋い演技でしたが、まだ20代でしたか。
芦川いづみ(21歳)の可憐な女中姿は格別です。菅井きん(31歳)が今と全く変わらない風貌なのには驚かされます。ラストを締めた市村俊幸(37歳)や芸達者な小沢昭一(28歳)をはじめ、金子信雄(34歳)、山岡久乃(30歳)、梅野泰靖(23歳)、西村晃(34歳)、殿山泰司(41歳)など豪華な脇役陣が画面を引き締めていました。
評判に違わない名作ですし、若き日の名優たちを眺めることができる作品です。
映画全体が落語のようにテンポがいい
★★★★★
最初は、落語の元ねたを知らずに見たのですが、川島監督の演出が際立つテンポのよさ、フランキー堺さんのスマートなユーモアに最初から最後まで見入ってしまいました。
その後、落語ブームで見に行った落語の寄席で、納得。テンポもスマートさも、もちろんユーモアも、落語そのものの空気感を生かしきっているのです。ストーリー自体は必ずしもハッピーエンドではないし、人の悲しさすら感じさせるのですが、それを軽快な笑いに変えてきた落語と川島監督の追及した映画世界の深いつながりを堪能できる最高傑作です。