川島雄三監督が、自らの代表作「幕末太陽傳」の精神を引き継いだ続編と言われる作品。大阪の“アパート屋敷”に住む、個性豊かな人々と、“積極的逃避”をモットーとする五郎(フランキー堺)が織りなす、スラップスティック風味の傑作人間喜劇。
原作は井伏鱒二の小説だが、川島監督と藤本義一(脚本)が大胆にアレンジ。試写を見た原作者は、帽子を目深にかぶって無言で試写室を去ったと言われる。確かに「個性豊かな」とはいうものの、登場人物たちのいささか常軌を逸したその言動には驚くばかり。だがそうした環境の中で、陶芸家の女性(淡島千景)の好意がなんとも居心地悪い五郎の人間くささが浮き彫りにされていて、味わい深い。また五郎に替え玉受験を依頼する学生役の小沢昭一が怪しさ満開の快演を見せ、芸達者フランキーと五分に渡り合い見応えアリ。劇中の桂小金治の台詞にある「花に嵐の例えもあるさ。サヨナラだけが人生だ」は、川島雄三その人を現す名フレーズで、名匠の墓標にもその一節が刻まれている。(斉藤守彦)
明るい虚無感に衝撃を受けて
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「幕末太陽傳」が大好きなので その続編と言われる本作を見ることは長年の願いだった。今回DVD化されたことで漸く見る機会を得た。
原作者の井伏鱒二が激怒した事で有名となった本作である。原作は未だ読んでいないので比較しようがないが この作品はまず一筋縄では行かない傑作である。
「幕末太陽傳」という明るい喜劇に「主人公の結核」という隠し味を加えた川島監督の複雑振りが 本作にも十分に出ている。
一見 スラップスティックの どたばた映画のように出来ているが その奥には 相当の「毒」が隠されている点を強く感じた。
出てくる登場人物は 全て 滑稽な味わいながら 善人が殆ど居ない。これは「喜劇」という設定では中々有り得ない事であり その分 本作の味わいが奇妙で濃厚になっている。僕らは見ていて笑っているが だんだん 妙な底意地の悪さで 居心地が悪くなってくる。
主人公のフランキー堺も 「幕末太陽傳」の佐平次に非常に似た設定ながら 佐平次より遥かに内向的で 逃避的な姿勢が最後に色濃く出てきてしまう。それまでの颯爽とした活躍振りもあいまって見ていて はぐらかされた思いだ。
「サヨナラだけが人生だ」という井伏鱒二の訳詩の一節が 本作では繰り返される。川島の口癖だったとも聞く。その奇妙に明るい虚無感が 間違いなく この映画の基調になっている。
こういう複雑な味を持つ喜劇は余り見たことがない。それほど 衝撃を受けた作品となった。
サヨナラだけが人生だー!
★★★★★
何とも川島雄三らしい名作だと思います。
後の「青べか物語」に通じるようなオモシロおかしな住人たちが沢山出てきますし
桂小金治が『サヨナラだけが人生か…』と呟きおしっこをするシーンはあまりにも有名。
併せて藤本義一氏の「生きいそぎの記」を読んでもらえるとより堪能できると思います。
…それはロールキャベツの作り方から始まった、のでゲス。
川島雄三監督の名作、とうとうDVD化
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川島雄三監督作品というと幕末太陽伝くらいしか容易に手に入れることが出来ず、ケーブルテレビの番組表とにらめっこしてはチェックしていた。とりわけこの作品は原作者の井伏鱒二が気に入っていなかったためテレビ放送をすることが出来なかったいわくの作品なので、こうしてDVDで見ることが出来るのは非常に嬉しい。
内容といえば一つのアパートの奇妙な住人達が織り成すドタバタコメディーなのだが、そこには意思をもちながらも日常に流されていく日本人の姿が主人公を通して描かれている。また、本作に登場する「サヨナラだけが人生だ」は川島監督を代表する有名なセリフなのでファン待望のDVD化でもあると思う。
今では白髪になってしまった藤本義一が若い頃に師匠である川島雄三とアパートの設計図から作り上げていった作品、心して堪能したい。