川島雄三監督と若尾文子のコンビによるピカレスク・コメディの傑作。公団住宅に住むもと海軍中佐の夫婦が、芸能プロに勤務する息子、小説家の愛人である娘を使って金をだまし取り、裕福な生活を楽しむ。一方で息子と深い関係にある芸能プロの経理担当・幸枝(若尾文子)は男達を手玉にとり、一家を上回るしたたかさで旅館の開業資金を手にする。
全編を通じて舞台を公団住宅の一室とその界隈に限定するという実験精神。そして欲と欲との火花散るぶつかり合い、川島作品ではお馴染みの、膨大なセリフの応酬。人間の本性を描きながら、その醜悪さを滑稽に見せて笑い飛ばすあたりのしたたかさたるや。伊藤雄之助、山岡久乃、小沢昭一、ミヤコ蝶々といった芸達者たちが、火に油を注ぐような快演(怪演?)合戦を繰り広げて場を盛り上げるが、主役たる若尾文子は、前半艶然たる存在感とヘアスタイルで怪しげなフェロモンを放ち、旅館の女将となった後半は着物姿で男性観客を魅了。そのむせかえるようなセクシーさは、後期川島映画のミューズと呼ぶに相応しい。(斉藤守彦)
セリフ&映像のおもしろさ
★★★★★
公団(ガス風呂・ダイニングキッチン)が憧れの空間だったころの、空間を生かした密室劇。かな〜りワケありの悪党一家に、芸能プロダクション社長や小説家、若尾文子演じる芸プロ秘書などが絡むのだが、秀逸なのはものすごく多いセリフのおもしろさ。多弁に隙間なく俳優が語るのだがそのひとつひとつが見事に心理を照射し、説明っぽくは聞こえず飽きさせないのは演出のうまさか。確かに戦後の成長期あたり、こんな一家や子持ち未亡人がいたかもしれないなって思わせる背景もあり、妙に納得させられるのだ。
常に饒舌なわけでなく、途中に白黒の陰影しかない空間に登場人物を置いて回想のセリフを流したり、これまた長い(人生を思わせる)白黒の階段を歩かせたり。それぞれの過去を思わせるように、少し長めの登場人物の無言のズームアップがあったり、と緩急入り混じってて、カメラワークや美術などの演出もおもしろい。音楽も捨てがたい。鼓が印象的で能狂言風。全体に公団を舞台にした洒脱な能狂言といえそう。
破滅を示唆するラスト、幸せを希求しながらも薄氷を踏むごとき綱渡り的な人生をそれぞれが送っているという暗示。非常に含みを持たせていて心に残る。
悪い奴ほど魅力的
★★★★☆
この当時の憧れの的だった、水洗トイレ、風呂付、2DKの鉄筋コンクリートの公団住宅。この一室を舞台に繰り広げられる、相当に悪い人間達の傑作劇。
まるで、舞台劇を見せられているような錯覚に陥る。出囃子がまた効果的。
悪い奴ほど魅力的。しかも彼らには、彼らなりのまっとうな?理論がある。
悪党や犯罪者の心理ってこんなものなのかもしれない。
覗き、立ち聞き、公団住宅のあらゆる窓や欄間から垣間見る男と女の確執も面白い。こちらも一緒に、彼らを覗いているような錯覚に陥る。
父親(伊藤雄之助)と、母親(山岡久乃)が、息子(金銭横領の詐欺師)と娘(有名作家の愛人)の二人が赤い夕陽の中で、ゴーゴダンスを踊り狂う中、蕎麦を淡々と食べる、このシーンが非常に印象的。4人家族の中で、実は一番ワルでしたたかなのは、常識人ぶった上品な母親(山岡)ではないか?と思える。
小沢昭一のうさんくさいジャズ歌手、ミヤコ蝶々のバーのママ、この二人の演技が絶品。
そして、この映画の中で一番のワル、悪女が若尾文子。美しくて、妖艶で、知的で冷静な女。
この女と関係した男達は、みんな彼女の虜になって犠牲となる。でもなぜか憎めない。
脚本、原作は新藤兼人。
川島雄三作品は、時を経て、何度観ても面白い。
詐欺家族 VS 若尾文子。ニュータウン黎明期のアパートの部屋をカメラが動く動く!
★★★☆☆
大映看板女優の若尾文子を見ようと手にした作品。
「氾濫」と同じく、欲だけで生きる人間たちを描くという「問題作」だけれど、アパートの中だけが舞台で、派手なアクションもなく、舞台劇みたいなものすごいローコストな作品。
1962年の作品で、小さな文化住宅ではなく、大型のアパートが20棟以上も建っているのに違和感を覚えたが、調べてみると、ちょうど千里ニュータウンができたころ。
こういうアパートの生活がきっとモダーンな印象を観客に与えたに違いない。簡易だけど、シャワーを浴びて、バスローブを着たりするのがそのころはそうとう珍しく見えたことだろう。
でも、全然舞台の狭さを感じさせない。今のマンションの基準で言えば、決して広い部屋ではないのだけれど、カメラアングルが、上から下からまるで見てはいけない現場を覗くような感覚をいだかせる。
4人の詐欺家族は、こまめに動く母親を中心に、なぜか仲良く一緒に暮らし、娘に貢がされた作家や、息子のツケを徴収にくるミヤコ蝶々、息子の横領を訴える会社社長たちを、丁寧にチームプレーで追い返す。ウルトラマンに出ていた隊長の小林昭二のヘンテコなルー大柴みたいな歌手がおもしろい!
で、目的の文子さまに戻ると...
実は会社の会計帳簿係である彼女がいちばんしたたかで、まわりの男をたらしこんで、金を貢がせ、それで旅館をたててしまう。
最初は、OLとして登場。パッケージ写真にもあるが、アシンメトリーな髪型が今見てもとてもスタイリッシュでセクシーだ。
その後は、旅館の女将として和服で登場するが、これまた髪がいいかんじにはねてて、またしも色っぽい。
たらしこんで金を巻き上げた男どもを相手に一歩も引かず「ごめんあそばせ」と引き際も潔い。
もうちょっと文子さまの作品をみてみようと思った。
60年型「家族ゲーム」
★★★★☆
ネット上でもチラホラ指摘されてるけど、森田芳光の「家族ゲーム」はこれの影響下にあるようだ。特に由紀さおりと山岡久乃のキャラクターはかなり照応できる。
曇天を効果的に使っているところが、私好み。
徹底的に作り込まれた映画
★★★★★
舞台はほとんどが団地の一室。限定された変化の少ない空間でカメラワークを駆使し、逆に見応えのある「絵」を作ってます。人の激しい出入りや、機関銃のように連射されるセリフがスピード感を与えています。職人の細工のような、徹底的に作り込まれた映画なのです。
内容はシリアスな喜劇です。小悪人しか出てきません。小悪人のちょっとした悪事の歯車が狂い、キシミ合う。むしろ現代的な悪です。役者がシリアスに演じれば演じるほど、滑稽さが増す。そのコミカルさは人間の“業”の深さゆえ、見方によっては“怖い”映画でもあります。60年代の映画の方がよほど「戦っていた」と感じさせてくれる作品です。