諸怪志異、千変万化の妙
★★★★★
日本と中国の小説家、詩人、エッセイストたちの作品の中から八百字以内で、怖い話、不気味な話、不思議な話を選りすぐったアンソロジー。小泉八雲、泉 鏡花、夏目漱石、岡本綺堂、内田百けん、江戸川乱歩、川端康成といった大御所から、星 新一、筒井康隆、村上春樹、吉本ばなな、川上弘美、加門七海、平山夢明まで、全部で百篇の“てのひら怪談”を収めた文庫本です。
のっけから、久保竣公の「蒐集者の庭(抄)」という作品に出くわして、「やっ! こいつはセンスいいなあ。洒落てるなあ」と、にんまりしてしまった。だって、いきなり京極夏彦の作品の作中作かと思いきや、書き下ろし作品から始まりましたからね。これでもう興味津々、ぐぐっと引きつけられてしまったってぇ次第で。
その後も、入澤康夫のカタカナだけで出来たラルラルラルラな詩や、大岡昇平のほんのりエロチックな掌篇、平秩(へずつ)東作/柴田宵曲訳の“杉浦日向子『百物語』にもあったげな”妙な話、辻 征夫(ゆきお)の寂しいような切ないような詩など、がたり、がたりと、万華鏡が回転するがごとき味わい。まこと、編者が巻末で語っているとおり、<覗きこむ角度次第で千変万化する文学的カレイドスコープとでも称すべき一巻>たり得ているように感じました。
並べられた掌篇同士、テーマが似ていたり、怖いキモのところが通じていたりする配置の妙も見逃せません。梶井基次郎の「温泉(抄)」の次に岡本綺堂の「温泉雑記(抄)」ときて、岡本綺堂の話に出てきた“咳(せき)”が、次の作品「鰓裂(抄)」の中の“咳(しわぶき)”につながり・・・といった件り。あるいは、“人形”というモチーフで、明恵上人/澁澤龍彦訳、夢野久作、吉行淳之介の作品がつながり、吉行淳之介の作品に登場する「列車がくる、列車がくる」の言葉が次の押川春浪の「米国の鉄道怪談」を導き、さらに穂村 弘の汽車綺譚へと展開される件り。編者の粋な計らい、酔狂な遊び心に嬉しくなりました。乾杯!