バリでの青春時代と恩師へのレクイエム
★★★★★
バリ芸能に関心を寄せる読者にとっては、ワヤンのみならずバリ芸能の基礎情報が実にわかりやすく要領よく書かれており、非常に良い解説書であると思います。おそらくこれは、著者が実体験として学び積み上げてきたものの深さと幅広さの証かと思われ、真によく「わかった」者のみができることと感服しました。
また、読み物としても描写が丁寧で細かく、情景がありありと瞼に浮かびます。特に恩師たちについての愛情のこもった描写は、まるで自分の恩師であり身内であるような錯覚を覚えさせ、作者の青春時代を追体験している気分にさせられました。時にぷっと吹き出し、時に悔しさや恥ずかしさに冷や汗をかき、それでも、全体を通してどこか切ない心持がドローンのように響いています。半ばほどを過ぎると、読むにつれ泣けて仕方がありませんでした。これはまさに、著者が今は亡き恩師たちへ捧げる鎮魂歌であるといえるでしょう。
若い頃、何か一つのことに打ち込み、良き出会いを経験し、かけがえのない青春時代を送った人びとならばもちろんのこと、これから世界へ飛び出していこうとする若い世代の方々もきっと共感し、感動を共有することのできる1冊だと思います。