キャラ設定が弱い
★★★★☆
テレビドラマではともかく、小説ではあまり多く見かけない“倒叙形式の本格ミステリ”という帯につられて買いましたが、出来は80点というところでしょうか。倒叙形式ですから、犯人や動機の設定(だいたい知的レベルの高い犯人像が多い)が重要ですが、それはきちんとされています。また謎解きも偶然からと言うエピソードもありますが、こじつけたようなものはありません。文章も簡潔ですから読みやすく、短編集と言うこともあって気軽に楽しめます。
残念なのは肝心の福家警部補のキャラ設定が弱く、他のレビュアーも書かれているようにイメージがつかみにくいことです。自分はNHKのテレビドラマも見ましたが、あの永作博美のキャラを作るのは苦労したと思えるほどです。作者が「刑事コロンボ」の熱烈なファンと言うことで、それに倣って探偵モノに定番の“相方”を作らなかったのかも知れませんが、周囲の登場人物も正直言って貧弱です。主人公と常に絡む鑑識員とか、主人公と対照的な若手刑事とか出ては来るのですが、彩りを添えるところまでは全然…
このミステリの構成力があれば、女性警部補という以外に色気(セクシーさとかではなく、キャラとしての魅力)を作っていって欲しいなと思います。そうなればシリーズものとして人気が出そうです。
続編の「福家警部補の再訪」が5月に出たようですが、こちらでは警部補の魅力が増していると聞いてますので、期待です。
コロンボ万歳
★★★★☆
福家「警部補」ってとこにコロンボ愛を感じます。作品の中でも例えば「月の雫」は、コロンボシリーズの中でも特に名作の誉高い某作をまんま思わせるようにできています。明らかに狙ってますよねえ、これ。
コロンボも少しずつピーター・フォークのカラーを出した人情ものに変わって行ったのですが、福家警部補シリーズも変わって行くのでしょう。楽しみです。
主人公の魅力と読後感のよさ
★★★★☆
06年06月の単行本を文庫化した作品で,4編の連作短編集になります.
事件の様子や犯人,手法などが冒頭にあり,それからはじまる『倒叙ミステリ』で,
犯人はどこでミスを犯し,そして主人公である警部補はどうしてそれに気づいたのか,
主人公や犯人と視点が変わる中,小さな『ほころび』の積み重ねを追いかけていきます.
ただ,はじめにすべてを『見て』しまったせいか,伏線の類はかなりわかりやすく,
作品の性質上,トリックや謎解き,「まさか!」というおどろきはあまりありません.
また,推理や犯人の行動について,うまく行き過ぎなところはちょっと気になりました.
とはいえ,マイペースで相手の懐に入り込み,鋭い洞察力で解決に導く姿は魅力的で,
警部補には見えないという容姿と,刑事としての手腕のギャップがおもしろく読めます.
犯人を追い詰めていく終盤も,緊張感というよりは理詰めで互いに落ち着いている印象で,
実際の逮捕やその後までは描かれない,フェイドアウトするような締めは心地よく感じます.
なお,本作に収録の『オッカムの剃刀』が09年01月にNHKにてテレビドラマ化されましたが,
『キモ』の部分がすべて削られていましたので,ドラマ版しかご存じない方はぜひこちらも.
倒叙ミステリは犯人次第
★★★★☆
刑事コロンボの大ファンだったという作者が挑んだ、倒叙ミステリの短編集。
「最後の一冊」、「オッカムの剃刀」、「愛情のシナリオ」、「月の雫」の4編からなっていて、「オッカムの剃刀」がNHKでドラマ化されるのがちょっと楽しみ。
刑事には見えない福家警部補という小柄な女性探偵役。めちゃくちゃ酒は強いし、睡眠もほとんど必要ないみたいだけど、コロンボに比べるとまだ個性がうすい感じ。
コロンボも古畑任三郎もそうだったけど、やはり倒叙ミステリは名犯人あってこそ探偵役が生きてくる。その点で犯人にもう少し狡猾さが欲しい。
福家警部補の推理のプロセスは、緻密で本格派。コロンボのようなあざとさはなく正攻法。
続編も出ているようだし、これからキャラが立ってくることを期待してます。
とりあえず『挨拶』から
★★★★★
髪はショートで、縁なし眼鏡がトレードマーク。
チビで童顔のため、現場ではいつも刑事として
見てもらえないが、実は30オーバーらしい……。
これが本書の探偵役・福家警部補(下の名は出てこない)です。
一見頼りない彼女ですが、連日の徹夜をものともしないタフさと、
鋭い観察力や洞察力で事件の真相を暴いており、コロンボや古畑
の衣鉢を継ぐ《倒叙ミステリ》の探偵役としての存在感を十二分に
発揮しています。
コロンボや古畑との最大の相違点は、言うまでもなく彼女が女性であるということ。
そのため、実はオヤジ受けがよかったり、同僚からも変わって
いるけどそこがまた……、などと思われているようです。
また、事件関係者に対する心くばりの細やかさも女性
ならではで、それは犯人に対する場合も変わりません。
このあたり、コロンボや古畑がどこか非情であったのとは
一線を画しており、彼女の得がたい個性となっています。