理論が整理されてきている
★★★★★
クラインのPSポジションの理論が提出され、おおまかな骨格がほぼ完成してきた時期の論文が
収められている。
当初のクラインは今まで誰も手をつけてなかった乳幼児の精神分析にチャレンジしていった。特
に技法も他の分析家のように教育的要素を取り入れず、精神分析の手続きをそのまま乳児に適用
し、深いレベルの心の層を扱っていた。そこでクラインに見えてきたものは、フロイトが見たも
のよりももっと原初的な心のありようで、そのすさまじさに圧倒されていたように思う。その為
、クラインは見たものをそのまま記述していくことしかできなかったのかもしれない。このこと
から、初期のクラインの論文は全く整理されておらず、さまざまな臨床素材が生のままに提出さ
れていた。なので、初期の論文は分かりづらく、筋が読みにくい感はありつつも、その圧倒的パ
ワーにワクワクするような印象がある。
しかし、この時期になるとその生の素材をある程度の距離を持って扱えるようになっているのか
、かなりの程度に整理されてきている。反面、初期の論文にあったような圧倒的パワーが減って
きているように思うのだが。
本書に収録されている論文の中で重要なのは、やはりPSポジションを定式化した「分裂機制に
ついての覚書」(1946年)であろう。また、クライン理論のある程度の概要を知りたいのであ
れば、「幼児の情緒生活についての2,3の理論的結論」(1952年)が良いであろう。