バロック鍵盤音楽は疲れる
★★★☆☆
アレクサンドル・タローによるバッハ『イタリア協奏曲』とバッハの編曲したイタリアン・バロック音楽の1枚。
ドメニコ・スカルラッティでもそうだが、バロック音楽は特に鍵盤楽器で聴いていると「バロック的憂鬱」とでもいうミョーに沈んだ心持になってくるのが通常。これは評者だけなのか?
だから、とてもドメニコの555曲を全て聴こうなどとは思わない。殊にクラヴサンで弾かれた日には。とは言え。スコット・ロスの『ベスト』盤なら何とか最後まで付き合える。
いや、やはり、大バッハだけが別格なのだ。『ゴルトベルク』などなど彼の鍵盤曲はいくらでも聴いていられる!!
その評者独特かもしれない印象は、この全てスタンウェイで弾かれたアルバムでも同様であって、バッハの『イタリア協奏曲』がなかったら、本当に辛いものになっただろう。
まあ、それもマルチェッロとかヴィヴァルディの作品を続けて聴くからいけないのである。特に短調になると、どうもいけない。
『イタリア』は、本当に素晴らしい。干天の慈雨というか、作品自体の幅が一気に古典派に飛躍したとまではいえないにしても、音楽に喜びが溢れている。よかった!!!
タローの演奏は、スタンウェイの機能をフルに使ったものなのであろう。その陰鬱なバロック的翳りを吹き飛ばす『イタリア』だ。それは他の作品についても相対的には言えるのであろうが、評者の感性にはあまり響いてこなかった。やっぱり、バロック鍵盤音楽は暗いのである。
非常に疲れてしまう。退屈の別名か? 大いなる偏見であろうことは認めるが・・・・。
そう言えば、同じタローによるクープランやラモーには退屈しなかったなあ。
旋律も、ピアニスティックな響きも、最高に楽しめます
★★★★★
バッハの「協奏曲」と名のつくクラヴィーア曲を中心に、ピアノ演奏により収録した企画力の秀逸なアルバム。編曲モノが多い。ピアノはアレクサンドル・タロー(Alexandre Tharaud)ピアノ独奏曲であるのに協奏曲というネーミングがついているのは、両端楽章においてフォルテとピアノ(トゥッティとソロ)が交互に登場する協奏曲様式が用いられていることに由来する。
これらの曲のうちイタリア協奏曲を除けば、チェンバロ(ハープシコード)で演奏されることがほとんどであり、ピアノによる録音は少ない。しかしピアノという楽器の表現力の豊かさは弦を弾いて音を出すチェンバロ等の古楽器の比ではなく、弾いてみると(もちろん奏者のセンスも大きいが)たいへん美しく響いてしまうのである。タローはラモーやクープランのクラヴィーア曲もピアノで美しい録音をしており、いわばこのジャンルを探求する第一人者と言える。
イタリア協奏曲では残響豊かな録音も手伝って、ピアニスティックなニュアンスを堪能できる。この曲を「うるさくなく」弾くのは難しいと思うのだが、さすがタローである。アリアと称される収録曲の原曲はオルガン曲パストラーレBWV590の第2曲。この曲は映画「ルパン三世 カリオストロの城」でカリオストロ伯爵とクラリスの結婚式の場面で印象的に使用された(オルガン版)ため、私と同じ世代には懐かしいに違いない。ピアノでも神秘的な雰囲気がよく出ている。マルッチェロによる協奏曲BWV971の原曲はオーボエ協奏曲として有名で、こちらもその耽美的な第2楽章が映画「ベニスの愛」で用いられて有名になったもの。このようにこのアルバムは旋律の魅力でも存分に楽しめる。そのほか、急速楽章での鮮やかなパッセージの切り替えや、ピアノならではの音色を駆使した音楽の起伏の表現も見事で、最初から最後まで存分に楽しむことができる。こんなアルバムを作ってしまうタローはやはり目が離せないピアニストだと再認識する。
ピアノで弾かれる事の珍しい曲を集めてます
★★★★★
収録曲の詳細:
シシリエンヌBWV596(タロー編曲)
コンチェルトBWV590(ヴィヴァルディ原曲)
アリア(パストラーレBWV590より)
イタリア協奏曲BWV971
コンチェルトBWV974(マルチェロ原曲)
コンチェルトBWV981(マルチェロ原曲)
コンチェルトBWV973(ヴィヴァルディ原曲)
アンダンテBWV979
イタリア協奏曲以外のコンチェルトはバッハのオリジナルではなく、ヴィヴァルディまたはマルチェロの曲を鍵盤楽器用に編曲したもので、通常はオルガンまたはハープシコードで録音されている曲です。(BWV972以降の16曲)
なかなか現代ピアノで録音したCDは出回っておらず、見つけるのが大変なのですがこのCDではまとめて4曲も聴けます。そこに価値があります。
肝心の演奏ですがタローらしい軽い歌いまわしと、しつこくないアクセントのつけかたがこれらの曲に良く似合ってます。fを重厚に鳴らすタイプではないので、ニコラーエワのイタリア協奏曲をお好きな方は趣味に合わないかもしれません。タローオリジナルと思われる装飾音は意外にも少ないです。
微妙にテンポが揺らぐ、ヘタうまのイタリアンコンチェルト
★★★★☆
イタリア協奏曲は、グールドの秒針の進み方のような演奏を期待していましたが、微妙なテンポの揺らぎに???となりました。ハイドシェックの宇和島ライブのベートーベンのようにわざと大げさにテンポを乱すのではなく、田原俊彦が音程を外すようなテンポの乱れ方です。特に第3楽章がひどいです。ヘタなのでしょうか?でも何となくクセになる微妙さです。
装飾音はファジル・サイよりも多く、ところどころ和音をレガートというかポロローンと弾いていて、それはそれでけっこう新鮮に聴こえます。第3楽章の最後もそんな感じで終わります。
第2楽章の通奏低音(左手)は完全なスラーで弾いています。熊本マリさんのイタリア協奏曲が好きで良く聴くのですが、全く正反対です。
しかし、全体的にはその他の鍵盤楽曲も心地よく聴け、愛聴盤になりそうです。