江戸っ子気性が心地良い
★★★★★
岩波文庫版 東海道中膝栗毛の下巻。
宮から七里の渡しを(すったもんだの末)終え、無事桑名に着いた二人。
それから伊勢参りを経て、京・大阪を巡遊するまでを描く。
膝栗毛が爆発的人気を得たのは文化・文政期。江戸を中心に庶民文化の爛熟を見た時代である。
その時代以前には、いわゆる「寛政の改革」があり、厳しい風俗取締り・出版規制が行われた。
山東京伝の処分を始め多くの筆禍事件が起こり、いわゆる黄表紙・洒落本は大打撃を受ける。
そこへ登場したのが弥次喜多コンビ。
それまで都市や遊里の遊びに閉ざされていた笑いのフィールドを「旅」へと広げ、
道中二人が起こす様々な滑稽譚は、新鮮でしかも害のないものであった。
「白河の清きに魚のすみかねて 元の濁りの田沼こひしき」
こう狂歌に歌われたように、息の詰まる寛政改革に庶民は辟易し、笑いに飢えていたのだ。
弥次・喜多の二人が大歓迎もって受け入れられたのも、十分理解できるところである。
とはいえこういった時代的事情のみならず、この作品が今に語られる歴史的一作となったのは、
単純にその内容が面白かったからだろう。
本書のラスト、しくじりから素寒貧になり、それでも
「へちまともおもはず、洒落とをして、すこしもめげぬ」
弥次・喜多の二人。
宿の亭主思わず感心して二人に路銀を与え、その道中はさらに続いてゆくのである。
このさっぱりとした二人の江戸っ子気性も、読者に愛された理由に違いない。
本書は原文のまま翻刻したものだが、下段に豊富な注釈がつけられ読みやすい。
原文の膝栗毛に触れたい向きには特にお勧めしたい一冊。