冷戦の時には、おそらく、たぶん、絶対に出しえなかった内容の本
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とにかく密度が濃いの一言につきる。
内容は、Yak-1、7、9、3の各型について、そのバリエーションも含めて総ざらい。掲載写真は160点以上で、カラーを除いてほとんどが大戦中のもの。コクピットや機種インテイク形状の変化を追う写真もあれば、搭乗員の特定されているものもある。計5本ある記事の値打ちも高く、バリエーション展開に関する解説、構造とシステム、戦果と損耗の数字に関する分析、女性パイロットの風説に関するものの4本は藤田勝啓氏、技術的背景に関する考察は鳥養鶴雄氏。いずれも良質な記事で、互いに読みあわせれば歴史的大局までもが見えてくるから、技術史や産業史に関心のある人ならば、この戦闘機の持つ歴史的意義を他国のそれと比較することもたやすいだろう。
どう贔屓目に見てもどこか野暮ったさを感じさせる飛行機だが、本書を読み終えた時には、すっかり魅了されてしまった。一部に校正の甘さと編集のポカ(生産風景の写真に付けられたキャプションが、次ページの写真にも付いている!)が見られたのが実に惜しい。
この機種もカバーされるとは
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第2次大戦中のソ連機の特集としては3冊目になります。内容は他のシリーズと同じ、(現存する機体のカラー写真も含め)実機写真、カラー塗装図、Yak-1、Yak-7、Yak-9、Yak-3機体開発の経緯、構造、戦歴、読み物としての女性だけの部隊(戦闘機部隊ばかりでなく爆撃部隊)に関する記事が収録されています。傑出した性能は持たないものの、初心者にも寛容なヤコヴレフの戦闘機を良くカバーしていると思います。
構造の部分で言及されているヤコヴレフの戦闘機は左右に分割されているYak-3を除き左右一体の主翼を採用しているという内容ですが、それだけ読むとそれほど感心しないかもしれませんが、実はソ連の同時代の戦闘機ラヴォチキンとミグは主翼が中央と左右の外翼で分割できるよう要求されており、運搬や修理に便利なようになっていますが、ヤコヴレフはこれを実施すると接合部分だけ重量増加になることを嫌い、その要求を無視し一体化主翼(Yak-3でも接合部を1か所にして軽量化を狙っています)を採用したという重要な記述なのです(鳥養先生はラヴォチキンは一枚翼と記述していますが、ラヴォチキン関連の文献を見た限りでは分割可能になっていたようです)。ヤコヴレフが軽量化を意識していたことは確かで、性能試験時にも装備の一部を外したりして性能が良くなるような工作をしたそうですし、主翼の強度不足によりスターリンに叱責され強度を増して安全性を高めたYak-9Mは相当性能が低下してしまいました(実用状態になって性能低下を起こした顕著な例はYak-2、Yak-4であり、その顛末は岡部いさく氏の「世界の駄っ作機」第1巻で紹介されています)。
ところでヤコヴレフは同じVK-105エンジンを使用するラヴォチキンに対して露骨な圧力をかけ、実際にLaGG-3を製造していた第153工場の効率の悪さを上層部に直訴し、Yak-7の製造に変更させてしまい、そればかりかラヴォチキンの主力工場だった第21工場にもスパイを送るなど手を伸ばしていたそうです。幸いラヴォチキンは(ラヴォチキンが一番懐疑的だったそうですが)エンジンをシュベツォフASh-82に換装したLa-5を開発して事なきを得たそうです。危うく世界の傑作機からラヴォチキン戦闘機が減るところでした。
追記:P.34の主脚カバーによる型式の区別ですがYak-1とYak-3が車輪と脚柱の2つの分割され、Yak-7とYak-9が1体式の間違いです。それから操縦桿の握りがYak-1の頃は環状の握りの付いたもの(英国機に良く見られる型式です)が、Yak-3のように後期に生産された型(恐らくはYak-9も)は日本などで一般的な棒状のものに変更されています。