一途。
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八寸と麻が不意打ちのように別れを余儀なくされてから、四年がたった。
八寸の身の上に大きな動きがありそうだった『かはたれ』のラストを引き継いで
その後の八寸の暮らしが冒頭で語られる。
問題は山積ながら、まずまず落ち着き処を得た八寸に安堵するのも束の間、
また長老によってもたらされた難題が降りかかるのである。
約束を信じる一途な心。信じて待ち続ける健気さが切ない。
不知という聡明で美しい銀色の河童の来し方が物語の芯となる。
不知と司青年との魂の繋がり。八寸と麻の絆。麻と河合君の友情。
それらが相まって、物語に清らかで重厚な、
けれどもあたたかいハーモニーが流れる。
「過去は、過ぎたれど去らぬ日々だったのである。」
物語のなかの時間が過去も現在も透けて重なりあい、
まさに“誰そ彼”の薄暗がりに読み手も立ちつくす。
恐ろしい時代があったことをいやでもまた思い知らされる。
不知と司との約束の件は、熱く切なく胸に迫り
不知の一途さを信じて奔走する八寸と麻たちの尽力にも打たれる。
彷徨うしかなかった司の魂の美しさ、その独白が私を捉えて離さない。
それぞれの一途さがもたらした奇跡に涙せずにはいられなかった。
魂はお互いの心におさまり処を得たのだ。
「誰そ彼」の闇と光のあわいに滲んでゆく八寸と不知の姿は
麻の、そして私の心のなかで、決して消えない。
透き通った寂しさ
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透き通ったきれいな寂しさに満ちている本。
もし「寂しさ」というものを形にすることができるなら、きっとこの本になるのでしょう。
60年間帰らぬ人を一人で待ちつづけた不知の寂しさが、月の光のようにこの本を満たしています。
そして麻の寂しさ、八寸の寂しさ・・・・誰でもみな、心の中に寂しさを抱えて生きていることを改めて感じました。
寂しさと寂しさが寄り添うところに、優しさが生まれ、その優しい心が奇跡をおこします。
読み終えた後、思わず泣いてしまいました。
「児童書」として、子ども達のジャンルに置いておくにはあまりにももったいない。
大人にこそ読んでもらいたい一冊です。
侮りがたし!児童書ジャンルの本
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「YA朝読書ブックガイド・プロが選ぶ180冊」で、中高生アンケート人気一位となっていた本。読んでみて、驚いた。どうしてこれが児童書扱いなんだ。深い。確かに、中高生どころか大人の読書にも耐えうる本だと思った。これは続編らしいが、一冊で独立しているような気もするし、シリーズ化されそうな気配もする。児童書ジャンルの本もまことに侮りがたし。
言葉を超えて!!
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素晴らしいの一言です。前作の『かはたれ』でも人の心の善を信じる登場人物たちが心地よかったのですが、その後編のこの作品は、もう魂の透明さにまで到達しているといえます。「聞こえない音楽を聴く」こと、「見えない絵を見る」こと、これは透明な魂でなければできないことです。主人公、麻をはじめとする登場人物(河童)たちは、人の心を信じる透明さを持っていたから聞こえない音楽を聴き、見えない絵を見て、そして時空を超えることができたのです。
まさしくファンタジーなのですが、その核が人間本来の善を信じる心だからこそ、こちらの心にも本物として納得できる物語になっているのです。その作者の信念が全編にちりばめられていて、それが悲惨な戦争を告発する鏡となってきらめいてもいます。
読者は読み終わったら、私たちにとって何が大切なのか否応なく気づかされることでしょう。
暖かいはちみつレモンのようでした
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前作「かはたれ」に引き続き、
「ああこのストーリーに身を置いてみたい」と思ってしまいました。
河童の存在以外、特に独特な設定ではないんです。
でも麻や八寸たちを取り囲む日常生活のさりげない豊かさの一つ一つが、
そういう気持ちを誘います。
毎日忙しく過ごしていると気付かずに過ごしてしまいそうな
ひとつひとつの自然や風景の描写がとても暖かく、
頬をなでる風や草花の香りすら感じるようでした。
解体直前の古いプールを離れようとしない不知、
一体どうなってしまうのかと思いますが、
ちょっと切ない、でも柔らかい結末を迎えて、ほっとしました。
月並みですが、麻をはじめとする子供たちの一生懸命な取組みに心をうたれます。
少し難しいかなと思う部分もありますが、
きっと子供達もどきどきしながら読むはずです!
また、松谷みよ子さんの作品もちらっと登場したりして、
小学生の頃松谷さんの本を沢山読んだことを思い出しました。
そういえばたしか「たそかれ」と同じような
柔らかい空気を表現する作家さんでした。
大人も子供も楽しめる朽木さんの作品に
再びどっぷり浸ってしまったこの一冊です。