金井美恵子が好きだから見たくなる映画がいっぱい
★★★★★
金井美恵子を読まなければゴダールやトリフォーやロメールその他の映画も見なかったかも知れないし、金井美恵子を読んだから、それらの映画も好きになったわけだが、成瀬巳喜男もワイズマンもまだ見ていない。見なくちゃ、と焦りつつ、本書を読む。
いつも思うのは、金井美恵子と同い年に生まれたかった、ということ。“確かに見た映画について、映画を見たと言えるのかどうかは疑問なのだから、それらの映画は大人になってはじめて見たと言ってさしつかえはないのだけれど、しかし、同時に、あるシーンは、それを見た時に見たことが身震いするほどの生々しさで再現されるのである。はじめてであると同時に生々しく再現されるシーン”(原文にはところどころ傍点あり。蓮實重彦の引用でしょう )というような文章を読むとね。その生々しい身震いから、「噂の娘」が(そして恐らくほとんどの金井作品が)生まれたのだ!
もちろん、目白のピザ屋で「ちびくろサンボ」について年配の女性達が話すのを小耳にはさむ話や、冷たいフィレンツェの白ワインとフランスパンによく合う前菜の“ひんやりとした薄みどりの小さな扇子のようなきゅうりとクリームの味のするヨーグルトに混じったハーブとスパイスとみどりのオリーブ油が咽喉を涼風のようにすべ”るさまを読むのも楽しいし、金井久美子作の、箱の中にこまごまとしたものを並べたオブジェ(まるで金井美恵子の文章のよう。このオブジェについて書かれた「あとがき」も素晴らしい)の写真を眺め、そこに使われているアニエス・ベーのTシャツを着たグレーのフェルトのクマを自分も持っているというだけのことですごく幸せになったりもするのだが、“一枚の布で出来た簡素で美しい衣服によって、そして、淡い春の日ざしの中で単調に刺しつづけられる絹のハンカチーフによって、抑えられた愛の短い激情の深さが語られる”「春の惑い」も早く見たいなあ。