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夕べの雲 (講談社文芸文庫)

価格: ¥1,155
カテゴリ: 文庫
ブランド: 講談社
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旅をするように生きること ★★★★★
この文庫版の「夕べの雲」を発売当時に買い、いったい何度読み返したことだろう。

読み返しながら自分はこの本のどこに惹かれるのだろうと考えていて、たぶんこうなんじゃないかとわかったことがある。
旅をしているときに見る景色は、普段の生活の中で見るそれとは違う。
始めてみる景色だったり珍しい眺めだったりということもあるが、見る心のどこかにもう二度と見られないかもしれないという構えがある。
自然とその時時をいとおしむ気持ちが生まれる。

この本の主人公大浦は、旅をするように日常を生きている。
今見ているこの光景はもう二度とないという思いがどの行間にもあるような気がする。
木々や自然や、家族のそれぞれを見る大浦の目にはくもりがない。
われわれはついつまらないことにとらわれて大切なものを見失いがちだが、いつもこんなふうでありたいと思う。
なにを願い、どう行動するにしろ、基本のこころはこうでありたい。
こんなことを「夕べの雲」は教えてくれた。

庄野潤三氏は今年9月に亡くなられた。このすばらしい作品をわたしたちに残されたこと、心から感謝します。
雲の流れ ★★★☆☆
平凡な日常の中にも二度とは戻ることの出来ない瞬間の「今」があることを教えてくれる。それはタイトルが示すように、一瞬々々で流れ動き、色合いをも変じさせていく「夕べの雲」のようであり、決して手に掴むことのできない美しいものである。

本書は1960年代の日本の家庭を淡々と描いている。緑に囲まれた丘の上に住んでいたその家族は皆ほのぼのとしており、生活にゆとりを持っているようだ。やんちゃな子供たちの遊びは木登りを始め、カブトムシ捕りやぎんなん拾いなど、多くが自然の中でのものであり、その一昔前の遊びを前に懐かしさと微笑ましさを感じないではいられない。また、次第に都市化され自然がなくなっていくもの惜しさと切なさが背景としてあり、そういった遊びのかけがえのなさがより浮き彫りになっている。子供時代、無限にあると思われた遊びの時間も、実は一瞬々々のものであり、やがては終わりがやってくる。都市化という環境の変化がそのような「今」を感じさせ、かえって感慨を覚えさせる。

なんとも言えぬノスタルジーな世界の中で、平凡な生活がただただ流れてゆく本書に眠気を覚える人も多いだろう。時間の余裕があるときに惰眠するように読みたい一冊である。
納得の作品 ★★★★★
この本が、あの須賀敦子さんの初伊語訳作品とは後になって気がつきました。須賀さんの御本も追悼特集本も持っているのに。
読み終えて、なるほど細部が描かれていて、しかも温かい家族の愛情が伝わってくる。須賀さん好みの作品でした。今ではもう大人になった娘さん息子さん達の幼かった頃のエピソードが詰まっていて(私は最近の本から先に読んだので)「ああ、こんな子供時代を過ごすとあんな家族思いの立派な人間に育つのだなあ」と感心し、これは子育て中の友人にも勧めたい作品だと思いました。庄野さんと奥様は素晴らしい!!
変わりゆく現実の世界、変わらない本の世界 ★★★★★
この本を何で知って、いつ、どこで購入したのかは全く憶えていない。でも時々、内容の記憶が薄れてかけてきた頃になると決まって読み返したくなる。そしてその度に、なんとも言えない安心感が体中に広がって、幸せな気分になる。この本の魅力とは、一体何なのだろう?

それはタイトルにあるような、常に形を変えていく雲のようにはかない時間の一瞬、一瞬を見るせつなさ、懐かしさと、それとは対照的に地に足のついたような、妙に現実感を持ったおかしさの微妙なバランス....なのではないかと考えるのだが、はっきりとは分からない。でも少なくとも、わたしの頭と心はこの本の世界を求める、それは確かだ。

こんなふうに何度も何度も読み返したくなる本には、なかなか出会えない。

古き良き時代へのノスタルジー ★★★★★
25年ほど前、高校の教科書に載っていた「夕べの雲」の中の1章「ピアノの上」を読んで、ほのぼのとした筆致に惹かれ、本屋で「夕べの雲」の文庫本を探して買ったのを懐かしく思い出しました。一気に読んでしまうのが惜しくて、毎日1章ずつ大切に読んだものです。夫婦に子供3人(娘ひとり・息子ふたり)が住む丘の上の家での淡々とした日々の生活を各章ごとに甕や梨・テレビアニメなどにまつわるエピソードを交えて、平凡ながら幸せな一家の物語として綴ってあり、読後感さわやかな一冊です。