面白くて一気に読むのが惜しいくらい
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面白くて一気に読むのが惜しく、毎日一話ずつ読みました。
知的で上品な女性が取り乱しもせず、何の意識もせずに不倫相手に一生消えない傷を負わせる「絆」は最後の一行にぞっとします。現代の島流しのような環境で住民たちが独特の世界を作り上げていく「コミュニティ」はおぞましいのか羨ましいのか分からないような複雑な気持ちに。「恨み祓い師」も恨みのマイナス面と共にプラスの面も見せられて考えさせられます。
どの作品も人の抑圧された感情が基調になっています。その感情に負けてしまう人.サバイバルのためになんとか折り合いをつける人.密かに解消する人.ネガティヴ感情を生き甲斐にしている人.人の感情のゴミ箱にされている人、などが出てきて、誰でもどれかは体験したことがあるのではないかと思います。
人によってどの作品が一番印象的かは違うでしょうが、巻末の解説はちょっと解説者の思い入れがすごいですね。でも、「本書に収められた六編の短編は、全て長編でも読みたいと思わせるものばかり」という意見には同意します。
また、巻末には「この作品は2006年8月、集英社より刊行されました『夜のジンファンデル』を、文庫化にあたり改題したものです。」とあります。