作家が好む作品
★★★★★
島尾敏雄が亡くなった時、文芸雑誌各誌は、こぞって島尾敏雄追悼の特集をした。生前の島尾を知る作家や批評家の追悼エッセイを集めたわけである。そのかなりの数(10は軽く超えていた)の追悼文がそれぞれ、「私が一番好きな(評価する)島尾作品は」というような文脈で、作品名を挙げていた。私の記憶では、「死の棘」6票、「魚雷艇学生」7票、「夢の中での日常」2票、他1票の作品多数、といった感じだった。「死の棘」を選んでいたのは批評家たちで、「魚雷艇学生」を選んでいたのは作家たちだった。きっぱりと分かれたことが強く印象に残っている。「魚雷艇学生」の最後の短篇(章)を書き始めたところで島尾は亡くなったので、生前の構想が完結している作品ではないのだが、島尾は構想して書く作家ではないので、現状の形でも十二分に島尾文学の「文体」の切実さは味わえる。