舞台はアメリカ西部。広大な自然に抱かれながら、その日暮らしを続ける酔いどれ探偵ミロ・ドラゴヴィッチ。
さりとて優秀ではなく酒にだらしなく、せいぜい凍結された親の遺産が入る日を心の糧にしている決して出来の良くない男である。そんな彼の元に美しい女が現れ、失踪した弟の捜索を依頼される。そして...
ストーリーをざっと説明したところで、それはそこらによくある探偵小説とさほど変わらない。
本作品を名作たらしめる要因。
それは美しく逞しく描かれた大自然の情景と、それに反比例するかのような未練がましく言訳だらけでよこしまな主人公の姿。
しかしそれでも絶対譲れない強い信念と優しさがこの探偵ミロにはあり、作品ラスト箇所でようやくそれは読者の心に届く。
人は強くなければ生きられないが優しくなければ生きていく資格がない、とはかの有名な言葉であるが、クラムリーの描く作品世界には常にその言葉が鳴り響いているような気がする。
何度読み返しても素晴らしく、嫉妬すら覚える作品である。