考える仏教者、近代と格闘する。
★★★★☆
要するに未開拓の領域なのだなあ、というのが一読した感想でしょうか。明治の思想史を、仏教を中心において読み直すという趣旨なのですが、著者がくりかえし指摘するように、確かに日中・日露戦争期の宗教哲学はおそろしく生産的で、たぶん抽象的なレベルでは行くとこまで行ったのだ、という事実を初めて知ることができました。
島地黙雷や井上哲次郎による仏教近代化のスタートから、清沢満之・高山樗牛らの「個」をつらぬく徹底した哲理をへて、鈴木大拙や西田幾多郎の、著者にいわせれば少し楽観的にすぎる一元論的な発想が現れて一段落する、という歴史がコンパクトにまとめられています。まあ、章ごとの出来・不出来は様々ですが、こういう視点からの試み自体が新しいので、多少の不満は吹き飛ばすことができました。今後、この本の議論を叩き台にして、他に何をいえるのだろうか、という将来への思考が、読書してる間、常にちらちらと頭上をよぎり続けた、そういうパワーに満ちた作品です。