沈黙の領域
★★★★★
荒川洋治氏の文章は他にも2冊ほど読んだことがある。平易な語りのなかにひやりとしたものが込められていて、書き手の骨にきちんと触ることのできる。元来は詩人。詩のほうは、図書館で借りてきて読んだことがある程度だが、お金に余裕があれば買って持っておきたい。
産経新聞に毎月連載されていた文芸時評を149篇集めたもの。表現を志すひと、営むひと必読の一冊だと思う。新聞の連載ということで文章は少々硬いが、文学を読むことを通して、作者の姿勢がきちんと提出されている。「文学は実学である」というような、今の時代に多くの人が忘れ去ってしまったことをきちんと伝えている。
やはりぼくの読んだことのない小説がたくさん出てくるが、読んだことなくてもそれを読んだ荒川氏がいったい何をどこに向けて批評しているのかがはっきり伝わってきて楽しい。特に言葉と社会の関係、言葉を扱うものの沈黙の領域について、ぼくはこの本を読んでとても勉強になった。もっと昔の人の小説をたくさん読んでみたい。
村上春樹や大江健三郎、中上健次、保坂和志等々、親しみ深い作家の作品については、なるほどとうなずくことも多い。読むという行為と書くという行為、表現するという好意と、受信するという行為、この狭間で社会に続く道を感じ続けた、時評という10年間の瞬発力に、ぼくはたのしく、参った。