江戸をタイムトラベル
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著者の杉浦日向子さんは”お江戸でござる”に出ていたやたら江戸時代に詳しい女性でしたが、惜しくも早世されました。
現代人がタイムスリップして江戸を見物したらこんな具合かも、というスタンスで描かれた肩の凝らない読み物です。著者が描いたイラストも雰囲気を醸し出しています。
膨大な江戸時代の知識が背景にあるからこそ、現在の光景からかつての風景を脳の中で描けるのだと思います。ぜひ著者と一緒にタイムトラベルをしてみてください。
ほのぼのとして何故か哀しい
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杉浦さんが、タイムスリップして江戸を案内して歩くように書かれています。不自然さが無く、ああ、こんなだったんだなーと、江戸と現代との違いに違和感無く入り込めます。挿絵も素晴しい。読んでみて、何故か近代東京に住んでいるのが哀しくなりました。時々、ぱらぱらとめくるだけでも面白い。
『江戸アルキ帖』
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医院に行くときなど、「今日は待たされるな」と思うときは、文庫本を持参する。そうすると待ち時間が気にならない。『江戸アルキ帖』も、そのつもりで持参したのだが、医院の混雑の中で読むには程度が高すぎたようだ。そこで自宅で読むことが多くなった。始めから終りまで、見開きの右ページに文、左ページに日向子自筆の絵がある。日向子は江戸時代にタイムスリップし、江戸娘となって、江戸中を歩き回り、時には小舟で川を遡(さかのぼ)る。読むほう(私)もすっかり江戸人になったつもりでいると、突然、話が「東京では」になったりするから、面食らってしまう。それに、絵をジイッと見つめていたりするから、なかなか先へ進まない。今は亡き日向子が、どこかでクスクス笑っているような気がしてならない。
日向子さんに会いに行こう
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アルキ帖をパスポートにして江戸へ行こう!
この本は優れていて、ガイドブックにもなる。
始点は日本橋から、行きたいところへ自分の足でてくてく歩く。今日は裏長屋に行ってみよう。八さんや熊さん、ご隠居や元気なおかみさんたちに会える。銭湯にも寄ってみたい。江戸の町は埃っぽくて身体が黄な粉餅みたいになってくる。明日は両国でお化け屋敷に入ってやろうか、それとも風雅な向島までいってみようか。この本一冊あれば、江戸中どこへでもいける。歩いていると、もうとっくに江戸の住人になっている日向子さんに、ばったり出会えそうだ。
魂がさまよい出て…
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杉浦日向子さんの本の中でも一番好きな本で、手元においていつも眺めています。
前置きなしですが、いつの間にやらタイムマシンが開発されていて、杉浦さんはさっそく江戸時代に行ける免許をとって毎週のよにタイムスリップ…という設定。
でも、カメラやレコーダー、現代のものの持ち込みはいっさい禁止。というわけで、街をへめぐり、好きな光景をしっかり目に焼き付けて、自宅でスケッチを起こすという設定になっています。本書に収められたイラストは、全部そんな実地で見た景色の写し、なのです。
…というのは、もちろん架空の設定。だけれど、杉浦さんは架空という気持ちでやっていなかったのではないかと思います。今日はどこを描こうか。あそこの景色はよかった。あの人々は面白かった。あそこのせんべいはうまかった。そうだあれを描こう、なんてやってるとき、杉浦さんの魂は実際に現代を抜け出し、江戸の町を歩いていたのだと思います。絵はけっして本格な画家のように上手ではないですが、何気ない日常が中心に描かれ、見ているとその濃厚な“空気感”にこちらまで魂がさまよいだして江戸に飛んでいってしまうようです。