シネアスト・イーストウッドの存在感
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イーストウッドの映画を子どもの頃から観てきた世代には、つまりマカロニ・ウェスタンの『夕陽のガンマン』あたりから見た世代には、ユリイカのような高級批評誌がこうした特集に取り上げられるような大監督になろうとは誰も予想しなかったであろう。本特集の刊行の直前に日本でも叙勲され、新聞にご本人の謝意が記事として掲載される位に、イーストウッドの存在感は日本の映画シーンにも刻み込まれている。
今回の特集で彼の作品を語るには重要な丹生谷さんのエッセイは、彼の作品を通底する問題構成の機軸を陥穽と定義して、読み解いて秀逸。また黒沢清 X 蓮実重彦の対談も、玄人受けする内容。他にも監督作品ガイドも要を得た解説で、有益。さらに凄いのは、役者としての今後の活動はないものの、準備中の次回作の進行具合を語ったインタビュー記事も面白い。主演はモーガン・フリーマンとマッド・デイモンとでネルソン・マンデラを描くらしい、彼のモティーフはいよいよアメリカ究極の問題にたどり着いているのかもしれない。イーストウッドは、アメリカとハリウッドをライバル視しながら育った作家だと言うことを本人も観客も知り尽くしている、この構図そのものが実に希少に作品価値を高めている。他の論考も実に楽しめる。何時までも活躍して監督の一人である。メガホンを執らなくなれば、完結特集が必要な映画作家であることを確認させる特集である。お楽しみあれ!