遺伝子組換え作物の是非を議論する前に読む本
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一読、これは本当の話なのだろうかと驚いた.ここには、米国の某大企業が、バイテク技術の進歩に乗って、経常利益の半分を占める自社除草剤を世界に売るために遺伝子組換えの除草剤耐性ダイズ、ワタ、ナタネなどを開発したことが紹介されている.種子を買い組換え体を栽培した農家が、自前で採種して来年に使うことのないように、種子が自滅するターミネータ(シュワルツネッガーではない)というしかけをDNAにすべりこませたことが書かれている.自社製品に都合のわるいデータは隠し、事実を歪曲し、組換え体の安全性に疑問を投げる他機関の研究者には研究資金を引き上げると言って圧力を加え、政府の組換え体評価委員会に自社幹部を送りこみ、不利な法案はをロビー活動で押さえる、などのあらゆる努力をしていることが述べられている.この企業は、組換え体は世界的飢餓を救い、自然環境を守るとPRしている.この企業は、戦前には環境破壊のPCBを、ベトナム戦争時には枯葉剤を大量生産したおかげで成長した.遺伝子組換え作物の開発や普及に対する賛否の議論をする前に、このような現状を知る必要がある.このようなやりかたの開発は、もはや科学ではない.正常な企業活動ですらないといえよう.
「エコロジスト」という雑誌の特集号をまるごと翻訳して翌年刊行された本である.執筆者は18名におよぶ.翻訳はわかりやすい.ひとつ、58頁14行の「山羊草」というのはよく分からない.片仮名でも学名のほうがよい.縦書きの一般書なのに、巻末に詳細な出典と脚注がついているのがいい.