エネルギー分野の見取図
★★★★☆
本書はエネルギーに関わる幅広いテーマを概説し、この分野の見取り図を分かり易く描いていて、総論的な入門書としてとても良い。カバーされているテーマは、エネルギー安全保障、エネルギー産業の自由化と規制、電力、天然ガス、石油、地球温暖化と持続可能な開発等を含み、特に著者が大学教授を務めるフランスをはじめとするヨーロッパのエネルギー業界の話に詳しい。他方で、石炭市場、中国やインドのような国で重要であるクリーンな石炭関連技術や水力発電についてはあまり書かれておらず、省エネを促進するESCO事業の役割等も殆ど触れられていない。いずれにしても、エネルギーをめぐる様々な緊張関係(エネルギー資源の輸出国と輸入国、環境保全や気候変動対策と経済発展、公共の利益と私的利益、投資家と様々なリスク、エネルギー源間の補完性や代替性、エネルギー源分散化による安全保障強化とコストへの影響等)は良くまとめられている。
フランス人の著者は、本書の中で時折アングロサクソン的な考え方や用語との違いに言及しているが、本書で特徴的かもしれないと感じたのが、市場の役割を相対化して国家の役割を重視しながら、あらゆる手段を使って出来ることをすることを訴えている点だ。21世紀のエネルギー分野における課題としては、(1)様々なエネルギー源の社会的・環境的な外部コストの内部化、(2)省エネの促進、(3)温室効果ガスの削減、(4)経済開発のためのエネルギー資源の投入、(5)関係者への責任感の醸成、(6)国際的ガバナンスや規制の強化、が挙げられ、二国間や多国間の協力体制、国や地方公共団体が社会的規範、啓蒙、情報、基準・認定制度、課税、補助金、投資、排出権取引市場の整備等の手段を活用して取組むことが重要とされている。特に、エネルギー需要側の政策を優先的な課題と位置づけている点が興味深い。