現代の貧困問題の真の解決とは何か?
★★★☆☆
まず、貧困の問題を近代社会の労働観と関連して整理し、現代の新たな貧困を全く新しい問題として描き出している点が注目される。しかし、原書の初版が1998年であることもあり、ネオリベラリズムの過大視と福祉国家の過小評価、今日の貧困が「労働予備軍」から切り離されることになった原因を「消費社会」にのみ求め、グローバリゼーションには触れながら、それをもたらしたIT革命には全く触れられていない点など、現時点から見ると不満が残る内容となっている。著者は生産社会と消費社会を対立的な視点で捉えているが、私見では消費社会は生産社会のひとつの帰結であり、IT革命は大衆消費社会に打撃を与え、21世紀の今日、資本主義そのものが終焉の危機に瀕していると考える。現代の貧困問題も、そうした人類史的観点からとらえ直す時、“その先”が見えてくるのではないか?
現代社会論の必読書
★★★★☆
現代社会の孕む様々な問題に取り組み、近年日本での翻訳・紹介が盛んなバウマンが、グローバリゼーション、福祉国家の衰退など、極めてアクチュアルな話題について論じているのが本書だ。
このようなテーマは最近の流行であるといってよいと思われるが、本書のユニークな点は、それらが、「労働倫理」の観点から問題化されていることである。「働かざる者食うべからず」といった、一見正当なように見える「労働倫理」であるが、それは現代の貧困のような構造的な問題を個人の問題にすり替える働きをし、またそれは人々の間の連帯を破壊するということが指摘される。そして、「労働倫理」の成立を近代社会に結びつけることで、歴史的に相対化される、つまり、他の可能性へと開かれる。これは我々が現代社会を考える上で非常に重要なことだろう。
翻訳が日本語としてあまり練られていないのが惜しまれる。