黄金の官能
★★★★★
水銀の如く、液体になった黄金をイメージしました。
生命の根源の輝きを象徴する金属としての黄金。その黄金を希求して止まない人間の宿命とそれらの痕跡を、官能的に表現した作品であると感じました。
いまだに西洋文明の基層に沈殿する錬金術的世界観を、通読することによって体感することができる内容の本であると思います。
ユーロ=アジアにおける「装飾的思考」
★★★★★
ケルト研究の第一人者で、ユーロ=アジア世界横断の民族デザイン思想史の研究者
としても知られる、鶴岡真弓氏の待望の最新作。待っていました。
西洋文明の「邁進力」の謎を、「生命表象としての黄金」をキーに、読み解くオデッセイです。
狭い錬金術史を扱う本では元よりなくて、「生命の心性史」に挑まれた、新しい試みです。
「黄金」とは、金品の欲望のシンボルではなく、死すべきヒト(有限の生命をもつ私たち人間)が太古から
生み出した「生命への思い」のシンボルだった。
この指摘から始まる、第1部。アーサー王の剣の「鋳ぬき」や、ジークフリートの剣の鍛えを、
共に、大地から命を産ませしめる「産婆」のはたらきとして、描き出し、
金銀銅鉄の神話と冶金術の関係の記述も、とてもわかりやすく楽しい。
聖書のアダムの話から始まる第2部、近代経済システムをゲーテの『ファウスト』から批判的に
読み解かれる第3部。
私たちが何を「黄金」と呼ぶのか。これほど分かりやすく解いたものは、かつてない
と思います。熱い本、たくさんの図版!どのページからでもパッと開いて読める、
まさに「黄金の羅針盤」だと思います。
鶴岡さんの最高傑作
★★★★☆
ケルト研究の第一人者鶴岡女史の現時点における最高傑作。
文化人類学・哲学・文学・美学・史学・経済史といった諸分野を横断的に渉猟する著者が手がけた、
金(きん)とそれに魅せられた者や無から有を作りださんとした者達をめぐっての一大歴史エセーである。
フレイザー「金枝篇」すら連想させる怒濤のエピソード引用は読者をグイグイ引き込み、
狂言回しのごとく登場するゲーテ「ファウスト」へのレファレンスは論考に奥行きを与えている。
それでいてちっともペダンティックなところがなく非常に読みやすい。
随所に登場する挿絵・図版もエソテリックで、永らく手元に置いておきたい一冊である。
気になった点がひとつ。共同体と貨幣との関係といったある意味ラディカルな論点に目配りしているのは流石だが、
貨幣経済の歴史的な推進者はほかならぬユダヤ人であったという事実に思いを致すと、
「インド=ヨーロッパ語族」の活動をメインに据える本書の構成は破綻するのではなかろうか?
このへんかなり重要な問題を感じたので☆は4とした。
”錬金術”に関しては調査不足の感が
★★★☆☆
実際に中世ヨーロッパで記された錬金術文書を読めば分かる事だが、中国の煉丹術に外丹法と内丹法とがあるように、西洋の錬金術にも2つの潮流がある。一方には、あくまで形而上の領域で”神秘学的錬金術”を行う人々が、もう一方には卑俗の金属を使って一種の化学実験を行う人々がいたが、後者は前者から”ふいご吹き”等と呼ばれて軽蔑されていた事が知られている。現代の専門家の間でも、彼らは”錬金術師”とは認められていない。
この本で取り上げられている”錬金術”は、あくまでも後者の、”ふいご吹き"による"卑俗の錬金術”を指す事にご留意頂きたい。本書の中に、本来の”神秘学的錬金術”についての記述は殆ど無く、それに関する考察を期待して読む人は、見事に肩透かしを喰らうだろう。
”卑俗の錬金術”と”貨幣経済”の関係についての一連の論考は、これはこれで面白いと思う。それだけに、”錬金術”の調査不足による綻びが、残念でならない。
モノリスとスター☆チャイルドを探究する錬金術師
★★★★★
読み始めてすぐに映画『2001年宇宙の旅』を想起した。
400万年前の猿人がモノリス(黒石版)に触れることで知性を持ち、
道具を使えるようになる設定である。
猿人が投げた骨は空高く舞い上がり、カメラは数百万年の時を越え、
宇宙に浮かぶ金属製のスペースシャトルへと切り替わる。
このような直感的な映像表現によってスタンリー・キューブリックは
人類の知性、道具、テクノロジーの関係を見事に表現した。
本書が扱っているテーマや人類史の描き方(方法)が、
『2001年宇宙の旅』と本質的に共通しているという当初の印象は
読み終わるまで変わらなかった。
(実はモノリスのみならず、スターチャイルドまで符合するのだ)
著者は60年代後半にフラワーチルドレンだったそうだが、
その意味でも精神の実験を現代に引き継いでいるといえよう。
ケルト文化が専門でもある著者は、人類と金属との関係を軸に、
旧石器時代から人類のマインドを丁寧に再構成しつつ、
象徴的な事象の考察を交え、今までに語られたことのない想像力の旅へと読者を誘う。
人類は何に向かって邁進しており、その動機とは何なのか。
まだ手に取ってない方はぜひ本書(=モノリス)に触れて欲しい。