インターネットデパート - 取扱い商品数1000万点以上の通販サイト。送料無料商品も多数あります。

父の肖像

価格: ¥2,730
カテゴリ: 単行本
ブランド: 新潮社
Amazon.co.jpで確認
実名小説にすべきだ ★★☆☆☆
 てっきり、堤康次郎を赤裸々に描いた小説だと思ったら、仮名なので愕然とした。無名の人物である父を描くなら仮名でもよかろうが、有名人である父を「楠清次郎」などと仮名で書くと白々しい。作中の人名も、どこまで事実名でどこから仮名だか分からなくなる。 
 小説だから仮名でいいとか、実名で書いたらノンフィクションになるとかいうことはない(城山三郎を見よ)。宮尾登美子の『きのね』は、モデルたる市川団十郎家の了解が得られなかったため仮名にしたと理解できるが、これは下手な小細工をせず、実名・事実小説にすべきだったと思う。
 
ダニエル・シュミットが映画化したらどうなるだろうか? ★★★★☆
作者の父である堤康次郎をモデルにした小説。ただし、対象となってい
る堤康次郎氏をストレートに描いた評伝では全くなく、推理小説のよ
うな、もしくは映画「市民ケーン」のような感じといったらよいだろう
か。息子である「私」が父を探求しながら伝記を書くことで、過去に拒
絶した、そして今なおいろいろ屈折した思いを抱く父を理解しようとす
る試みでもある。また同時に、そういう父をもった自分自身について描
いた私小説の趣も強くある。作中人物の人間関係だけではなく、この小
説自体が複雑な要素が絡まった構造となっている。
読んで一番目に付くのがその文体。父を描いていく文章には「熱」を感
じさせない。むしろ、醒めた、しかし同時に屈折した感情が込められて
いる。

父の死をもってこの小説は終わる。
2004年 第五十七回野間文芸賞受賞。
怪物を父に持つ悲喜劇 ★★★★★
父と息子というのは文学の永遠のテーマの1つでしょうが、その父が桁外れの怪物だった場合にはどうなるのか? この本は辻井喬さんの最後の長編となるでしょう。『彷徨の季節の中で』以来、辻井さんは自己の出自は何かというテーマを執拗に追求してきたわけですが、本書はこのテーマの到達点というべき雄大な私小説となりました。私小説として読む以上、辻井さんというより堤清二さんと呼ぶべきでしょう。
本書は、堤康次郎さんの生涯をたどる形をとっていますが、実際には清二さんの母親探しの旅として読むべき作品と思います。非常に重い小説です。
他方、重い私小説ですが、作者の仕掛けを知的に楽しむことのできる作品でもあります。本書の内容がすべて事実なのかはわかりません。私小説とはいっても小説である以上は韜晦が含まれているはずです。どこまでが事実でどこからが創作かはわかりません。特に、高田馬場のうどん屋の女将から岐阜の高僧になってしまう人が超重要人物として出てきますが、こんなことがこの時代に可能だったとは思えません。この人物の関連した部分だけは明らかにリアリティがなく周囲から浮いています。小説家としての技量から考えて、これが計算された効果であることは明らかです。どのような真実を伝えようとしているのか、作者の仕掛けを考えて楽しむこともできます。
小説を読む醍醐味を久々に堪能しました。
話題騒然ですが、この本も読むべきです。 ★★★★☆
題名の『父の肖像』に惹かれて読みました。が、小説でありながら、主人公である父楠次郎と息子恭次には、どうしても堤康次郎と堤清二の顔がだぶって見えてしまいました。
 郷里を出て、立身出世に邁進していく前半部分は、次郎の伝記部分と恭次のモノローグ部分が交錯して、時間の流れも前後して読みづらい部分もあったのですが、時代が第一次世界大戦、第二次世界大戦と進み、恭次が成長するとともに俄然、話しが面白くなり、大部でしたが後半は一気に読み上げました。
 より興味深かったのは、楠次郎の伝記部分よりも むしろ、恭次の生き様、・・・学生運動、共産党入党、スパイの疑い、離党、結核発症、療養所暮らし、衆議院議長秘書、・・・でした。激動の時代を生きた自分を凝視する目がすごいと思いました。一方で、自分の母親が誰であるのかという不安定な状況。結局は、恭次には、母が誰であるのかは、定かではなく、また、確かめないままに物語は終わるのですが・・・。
 作者の自伝が読みたいと思いました。
母の現像 ★★★★☆
『父の肖像』は、現実との活き活きとして呼吸回路を持った、
一個の作品です。

ここに、政治家としても事業家としても、巨大な存在として、
昭和史を駆け抜けた男性の肖像を認めることはもちろん可能です。

しかし、父の肖像には違いないけれど、ここにはもうひとつ、
「母の探索史」が隠れたモチーフとして、大切に挿入されていて、
「母の現像」としても迫ってきました。

けれどそこに、あらゆる突っ張りが溶けるような
回帰が待っているのではありません。謎は解かれたように見えながら、
ただそれとしてそこに置かれます。

乾いた肌寒い風が吹き抜けていきます。

西郷隆盛と田中角栄の間にあったもの、を考えさせるとともに、
不在の母を抱えた孤独な物語の印象が交互にやってきます。

寝入りばな、うつらうつらと読みついだせいで、
闇に溶けいるような輪郭を抱くのは、私のせいですが、
作家の抱く現実感はしっかり伝わってくると思います。