それはすでにそこにあるもの。
★★★★☆
「生きる意味」。非常に難しい話題を取り扱おうと試みた対談集です。きっかけは
著者が受け取った読者からの一通のメール。それは、一頃マスコミを賑わせた
「ネット集団自殺」に対する疑問、「……でも、どうして自殺してはいけないのですか。
人間はいつか死にます。だとしたら、いつ死んでも同じではないですか。
……いつか死ぬのであれば、自分の意思で死ぬときを選んでもいいじゃないですか?」
というもの。
そこに常識的な答えしか出せなかった著者の思いから出発して、著者が信頼を
置く9名の諸氏をそれぞれ訪ね、他者との議論を通して生命の宿業の意味、
つまりは生きる意味を問うた対談集となります。
この問に対して、一部では社会システムからの生き難さ、宗教的な側面からの
思索などから直接的なアプローチが試みられますが、ほとんどは著者と相手との
興味の分野が重なる部分での対話を中心に「生きる意味」の辺縁領域で緩やかな
幅を持って対談は進みます。
しかしながら、様々な分野の人との対話により、その場で紡ぎだされた言葉は
非常に刺激的であり、それを問い続けることが「生きる意味」を学ぶ場であること、
そして読者が本書を端緒として、それぞれの場で見て感じたことから学ぶことだ、
ということを想起させてくれるのに十分応える書だと思います。
分別を使って分別を乗り越える。or 伝えることはできない。伝染させる以外ない。
★★★★★
宮台真司×田口ランディ
「<社会>を生きるとは、「欠落を埋め合わせるために前に進む」こと。
我々を苛立たせる不完全さや欠落感に満ちています」
「近代の意味論に拘束された我々は、もっと凄い競争とか、もっと凄い暴力とか、
もっと凄いセックスとか、アッパーな(刺激追求的な)方向に行きやすい」
「<社会>の中で与えられた気分が、人々に<世界>を志向させたり、
人々に<世界>に特有の見え方を与えたりします」
つまり、「<世界>への志向それ自体が<社会>に内属する」こと、
「超越への欲望も、欲望という内在」である・・・
欠落の埋め合わせ行為であることをたしなむことである。
「<社会>を生きる(=分別)」とは、「期待外れ」をやり過ごすことである。
「仏教的にいえば、あらゆる分別は方便に過ぎません。
その分別に拘束されることがユダヤ・キリスト教的には「知恵の実」を食べた罪になります。
ならば、分別を使って分別を乗り越えるしかない」
「問いの解決が、承認(=分別)として与えられるか、問いを超えるという実践(=感染)として与えられるか」
「より効果的に<世界>に接触するために・・・」
右往左往する救世主
★★★★★
個人個人、生きる意味を考えていくと、堂々巡りになり、終いには意味など無いということになってしまいます。そして、そもそも人類、動植物、地球、宇宙の存在理由は何だ?と云う究極の疑問に
行き着いてしまいます。そうなると もうお手上げです。
時々、ふとそんな思索を巡らすことさえ娯楽ととらえ、日々好きなようにやって行くしかないかなぁ。答えは風の中だなぁ。
「(前略) けれども、人間がもし本当に知りたいことを知ってしまったら、私たちは生きてゆく力を得るのだろうか、それとも失っていくのだろうか。そのことを知ろうとする想いが人間を支えながら、
それが知り得ないことで私たちは生かされているのではないだろうか。」
ぼくの好きな星野道夫さんのこの言葉も、答えであり、答えでない。(注:本書には出てきません)
まいったな。右往左往するしかないのかなぁ。
そうか(電球ピカッ)、ランディ姉さんは 右往左往する救世主なんだ!そうだ!
北へ南へ東へ西へ、ぐるぐるぐるぐる。僕らの代理人として、 堂々をめぐっているのかな。
宮台氏のジャックマイヨールの話、森氏の<加虐の側に想いを馳せる>が興味深かったです。
それにしても、ぼくの生活圏の本屋にこの本は置いてありません。結局アマゾンで買ったのですが、もっと多くの人目に触れる様、バジリコ ガンバレ。
条件付きですが、出来の良い対談集です
★★★★☆
田口ランディの本は読んだことありませんでしたが、なかなかどうして東大教授らと互角に討論しているのは立派です。確固たる自説を持っているのが本書を読むと分かります。
ただ、本書に限ったことではありませんが、現代社会を紐解く内容の対談集は鮮度が命です。時代の流れが加速度的に速くなるばかりの昨今、いかに良質な対談がされたとしても、会話のなかに古さを感じさせてしまうと、やはり評価は落ちます。
次に、心の処方箋という表現は妥当ではありません。
ランディ氏自身も、生きる意味の答えなんてそもそもないわけだから、と述べています。
だから、たとえば重い悩みを抱えている、あるいは心の病に冒されていて、生きる意味を切実に求めたいと願っている人には、適した書ではありません。
以上、二点さえ押さえておけば、宮台氏との対談が難解なほかは読みやすく、時代を解くための良書としてお勧めできます。
これ、いい本です。
★★★★★
インタビュアもインタビュイも、逃げず臆せず、正直でしかも露悪に走らず、観念的になることを避けながらも話が複雑になることを厭わない。いや全く大したものです。大体、こういうものすごいタイトルの本にまとめられそうだと薄々わかっていて対談を引き受けたのだとしたら(そうじゃないと思うけど)、宮本武蔵の挑戦を受ける道場主のようなもので、話すことは文字通り真剣勝負ですね。
宮台さんの話はちょっと難しかったけれど、他の方のおっしゃることは一読してすんなりと胸に沁みました。
こういう本を読むと、よい編集者の力は大きいなあ、と思います。対談の録音テープをただ起こしただけでは、よい本にはならなかったでしょう。論点を整理し、枝葉を刈り込み、流麗な日本語に仕上げる努力を、ページの背後に感じます。編集者名はクレジットされていないようですが、活字と本に対する愛情をお持ちの方なのでしょう。そういえばこの出版社の本には最近ありがちなワープロの変換間違いなどを見かけることが少ないようです。