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津軽 (新潮文庫)

価格: ¥452
カテゴリ: 文庫
ブランド: 新潮社
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大切な人との再会〜民族誌としての『津軽』 ★★★★★
『富岳百景』と比べて、どちらかと言えば『富岳百景』の方が好きだ。
私は明るい雰囲気の話が好きだから、結婚を控えて妙にうきうきした感じの伝わってくる『富岳百景』が好きだ。太宰のような陰気な人が妙にハイになっているといじましく感じる。
とはいえ、本作も太宰作品ではどちらかと言えば、陽性の方らしい。
本作は、紀行風土記の体裁をとりながら、その実は人物風土記となっている。
生家と隔絶があり、自然と出身地の津軽にも足が遠のいていた太宰が、原稿執筆という大義名分をテコに重い足をふるさとへ向ける。ところが、ふるさとの人々は彼をわすれずにいたどころか、むしろ大いにその名声を誇りにして、暗く不景気な時代にもかかわらず、大げさなほどに歓待するのだった。
多くの旧友との交情が描かれるなか、クライマックスは著者の乳母であり先生でもあった「たけ」との再開の場面。
私はこの場面が好きだ。日本人はどんなに懐かしく、会いたくて仕方がなかった人と再会した時でも、本来は、抱き合ったり号泣したりはしないものだと思う。
高島俊男氏は、北朝鮮からの帰国者や復員軍人の家族との再会場面などを引いた後で、こう述べている。「わたしなどはむしろ、九死に一生を得て帰ってきた夫を空港に迎えた妻が黙って静かにおじぎする姿や、あるいは、久しぶりに帰ってきた人が子供の頭をちょっとなでるしぐさなどに深い愛情を感じる」
古き良き日本人、とはあまり言いたくないが、そんなエスノグラフィーとしても読めるところに、逆説的だが、深い文学性を感じた。
津軽にて酒三昧 ★★★★★
太宰の生まれ故郷は津軽・金木。
昭和13年に、太宰が故郷の津軽半島を、3週間かけて旅した際の紀行的小説。
その内容は、表面的なものではなく、太宰独特の細やかな人情の機微にも富んでいます。
また、太宰自身の考えや内面が、細緻に描かれています。

太宰は無類の酒好きです。
しかし食べ物は、がつがつしているとはしたないから、あまり食べないそうです。
ただし、蟹だけは別だと名言していますが。

蟹田に行くと、蟹をアテ酒三昧。
外ヶ浜へ行くと、かつての友人二人とある寺を拝観する事になりました。
「ちょっと飲みましょう」と友人。
「ここで飲んではまずいでしょう」と太宰。
「それでは、酔わない程度に飲みましょう」と友人。
結果は予想どうりで、和尚の有り難い話を、三人とも全く覚えていないのでした。

こんな具合に、よく酒を飲む旅ですが、全体にユーモアがあります。
それは、事実を誇張せずに語られているだけで、ユーモアと意識せずに書かれているのだと思いますが、
その事実そのものが面白く、思わずニヤッとしてしまいます。

しかし、終盤の乳母たけとの再会は、涙を誘います。
この場面には、本当にハラハラしみじみとさせられます。

こんな具合の、喜怒哀楽に富んだ、非凡な紀行的文学作品です。

明るいそのまんまの太宰に会える ★★★★★
 昨年は、太宰治生誕100年だったこともあり、たくさんの太宰作品を読んだ。その中で、「ああ、太宰という人は、本来こういう人だったんだなあ。」と、ようやく生身の太宰に会えたように感じたのが、この作品である。彼は、故郷津軽の人たちとこのように語り、このように酒を飲んだ。そして、大好きだった育ての親と再会する。太平洋戦争真っ直中の昭和19年の春、彼は都会の生活を逃れ、故郷津軽を旅する。この作品では、友と語るリラックスした明るい太宰に会える。また、一方で、実家に対する彼のコンプレックス、気詰まりも理解できる。長部氏による作品「津軽」の裏話(解説)、太宰本人の手による津軽半島の地図など、この文庫ならではの特徴も見逃せない。
良いと思う。 ★★★★☆
作者自身が故郷の津軽を巡り歩いた経験を元に書かれた、
虚実混交の自伝的小説。この人の小説の中では結構長い部類に入る。

内容は、壮年期の太宰が故郷を旅行しようと思い立ち、
地元の縁者らと交流しつつ津軽各地を歩き回り、
行く先々の土地の文化・歴史・地理を読者に紹介する、
というものである。

太宰と太宰を取り巻く人々のほのぼのした交流が見られ、
物語の雰囲気は明るい。
津軽という土地を全く知らない読者に対して、
丁寧に、滑稽味を交えて説明する文章は良い。

物語の端々に郷土愛が見えるのはとても良い。
ただ、作者が津軽の子どもがきれいな標準語を話す様を見て喜ぶ描写もあり、
太宰が津軽のすべてを認めていた訳ではないことが伺える。

これは戦時の日本人の一般的な方言観なのかもしれない。
太宰としては、故郷の文化の特性を認めつつも、
それが時の流れとともに中央のものと同一になるのを望んでいたのかもしれない。
購入の決め手は解説 ★★★★★
私はこの本を書店で購入したのだが、岩波文庫版と新潮文庫版とで迷った。最終的に決め手となったのが長部日出男による解説の面白さだった。内容としては「『津軽』の真相が物語る太宰のストーリーテラーとしての計り知れない力量」ということになろうか。これ以上言うとネタバレになってしまうので控えるが、この解説を読んで本編を読むと、さらに面白みが増すのではなかろうか。