「六波羅蜜寺」の仏像の素晴らしさ
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淡交社は、京都、茶道、歴史に関する書籍を出版していますが、この「新版 古寺巡礼京都」シリーズも意欲的で丁寧な企画だと評価しています。
その中の第5巻にあたる本書は、大和大路松原にある「六波羅蜜寺」を取り上げています。
口から六体の阿弥陀仏を出して「南無阿弥陀仏」を唱えている仏像彫刻で有名な空也上人が建てた真言宗のお寺です。観光寺院かもしれませんし、西国三十三所観音霊場の第17番札所でもありますが、有名な彫像が安置されているわりには、比較的静かな雰囲気を保っている寺院ですので、本書でその魅力を再確認して頂ければと思います。
章立ては、六波羅蜜寺を訪ねて、パーラミターへ―一千年の四季を繰り返して、六波羅蜜寺の歴史―庶民の中に生きた千年、「オブクチャ」物語―正月・皇服茶授与に寄せて、六波羅蜜寺文学散歩、空也上人像―史実と伝説とのあいだ、六道の辻―熊野比丘尼の絵解き場所、仏像の宝庫・六波羅蜜寺の文化財、となっています。
京都市美術館長の村井康彦先生の解説や、六波羅蜜寺住持の川崎純性氏の現代へのメッセージ、作家の高城修三氏の解説もあり、寺院の成り立ちや変遷について、学術的にもしっかりとした記述がなされています。
本書の最大の良さは、日本史の教科書でお馴染みの空也上人像、眼光の鋭い平清盛坐像、そして日本の彫刻史では避けて通れない運慶・湛慶坐像、そして地蔵菩薩立像、多聞天立像、広目天立像、持国天立像、増長天立像、という重文に指定されている文化財の数々が新しく撮りおろされた写真で掲載されているところです。六斎念仏、萬燈会などの写真も載せられていますので、見て楽しめる美術書としても有用でしょう。