森の豊かさ=地域の暮らし
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内山氏は哲学者であり、大学教授。かなり前から、貨幣経済、自然と労働などもテーマのようだが、一年の多くの時間を山村で過ごしていることもあって、森林や里にまつわる問題はライフワークのようだ。哲学というと、閉ざされた観念的な世界を思い浮かべがちだが、本書は全国の森を尋ね歩いて山村の内実を積み上げた、実証に基づく現代社会論といえる。
内山氏が言いたいのは、日本の森は多様な自然環境と地域の暮らしとの関係という二本立てにより豊かさを保ってきたということ。山が荒廃している現状は、山仕事で森林を守ってきた人の暮らしが成り立たなくなっていることと表裏一体の関係であり、林業推進か、自然保護かという対立概念で森をとらえてべきでないと戒める。
要は、森を守る力とは、声高に「自然保護を」と叫ぶような、現代社会の精神と一体である理性の力ではなく、森とともに暮らす人間の営みの確かさだというのだ。
山だけにとどまらず、森―川―海と循環し続ける世界へも関心が向かっている点にも注目したい。象徴的なフレーズは「感動するほど美しい川は、その川と同じくらいに美しい森や農村、都市の景観のなかを流れていなければ生まれない」。流域圏という発想を意識されているに違いない。