「あとがき」は司馬にしては珍しく強い感情が露わになった文章で貴重でもある、最大の読み所は、繰り返し土地公有を主張する司馬に対して、柳に風といったお大尽ふうにあっさりと受け流し(つまり暗に司馬の意見を否定し)続ける松下幸之助(松下電機の創業者で立志伝中の人物)の大物ぶりです、さすがはかつては経営の神様と本当にご本尊のように崇められた人物だけのことはあります、
本書は70年代、田中角栄内閣による日本列島改造計画が引き起こした土地問題に揺れた著者の悲鳴にちかい(あとがきで自身がそう述べている)ものであり、その時点で著名作家が「作家の良心と感」によって本書を成したことは評価できるものの、すでに21世紀、人口減少と土地余りの時代をむかえた現在に読み返せば、当時の高名な人物達の思考でさえ随分と目先だけのものであり、長期的な視点がないことがわかり、反面教師的な面白さもある、
「資本主義はあくまでも物をつくってそれを売ることによって利潤を得るものであり、企業の土地投機や土地操作によって利益を得るなどは、何主義でもない」などという文を見ると司馬の経済・経済学に関する無知がよく理解できよう、おそらくは司馬は複式簿記を理解していない、もちろん作家として理解する必要もなかろうが、作家の教養としてそれで充分とはとても思えない、視点を変えれば、前述が司馬流の資本主義の解釈ならば、社会主義はどのように解釈されるのか是非聞きたかったと思うのは評者ひとりではあるまい、