病床からの分析
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この本の目玉は「三たび平和について」だろう。平和問題談話会に参加した著者の思考が語られる。当時の通説とされていた「二つの世界」という概念が混乱していることを指摘している。社会科学者として何とか共生の道を探索する努力が垣間見える。
著者の本店の思想研究に興味のある人は、ナショナリズム論として以下がある。
『日本におけるナショナリズム」では国権論と民権論の関わりの中でのナショナリズムの発展が分析される。
「戦後日本のナショナリズムの一般的考察」ではその前近代的性格を焦点に当てている。
「ファシズムの諸問題」や「ファシズムの現代的状況」では赤狩りの風の吹き荒れていた当時の状況を分析し、アメリカでファシズムの流れが生まれていることを懸念している。
「『現実』主義の陥穽」では「現実」を都合のいいように利用する姿勢への批判が見える。
入手困難な「政治の世界」も収録されている。彼が政治学をどう捉えていたか理解する上で参考になるだろう。ウェーバーの権力理論の再構成、戦前ドイツ政治学の概念の活用などがみられる。政治化と非政治的大衆とのパラドクスを描いている。