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妖女のねむり (創元推理文庫)

価格: ¥882
カテゴリ: 文庫
ブランド: 東京創元社
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驚き! ★★★★★
週刊文春1983年 国内10位

古紙回収で発見した樋口一葉の書の謎を追って、諏訪へ向かう真一。旅の途中で出会った麻芸から、前世からの恋人であると告げられ一夜をともにする。次第に前世の記憶がよみがえり始めた真一の前で事件がおこる ・・・

本書の前半までは、???が正直なところ。過去世をリーディングできる黒光様が、二人の因縁を言い当てるにいたって、悪く言えばオカルト話かと思ってしまった。
が、奇術師でもある作者のこと、これだけ超常現象をあつかっていながら、すっきりと謎を解いてみせる(もっとも手品は種あかししないけどね)。驚き!でっかい風呂敷を、あれよあれよと畳まれてしまった印象。殺人事件の顛末より、こちらの決着のつけ方が実に興味深い。最後の最後まで、冒頭の伏線が効いている。「都合良すぎ〜」、ていうのもあるんだが、話の面白さが、そんな感想を凌駕してしまうんだよなぁ。

ただ、関連する登場人物が、ちと多くて、話しをてんこ盛りにし過ぎたかもね。
“輪廻転生”をテーマにした甘美な幻想ミステリ ★★★★★

大学生の柱田真一は、古紙回収のアルバイトの最中
に、偶然、樋口一葉の遺稿とおぼしき反故を見つける。

反故の出所を突き止めるべく、上諏訪にある吉浄寺
に向かった真一は、謎の美女・長谷川麻芸と出逢う。

麻芸は真一に、二人は前世で恋人同士だったという驚くべき話をする。

見聞きするさまざまな事実が麻芸の話を裏付け、真一も麻芸の話を信じる
ようになっていくのだが、運命の出逢いの翌日、麻芸は、真一の目の前で
毒殺されてしまい……。



“輪廻転生”をテーマにした幻想ミステリ。

真一と麻芸は、前世の二人が起こしたとされる心中事件について調べ始めるのです
が、その矢先、麻芸が毒殺されてしまうというショッキングな事件が起きてしまいます。

その唐突で動機不明な殺人は、生まれ変わりが前提とされたそれまでの
幻想物語的な展開と相まって、神秘的なムードをいやが上にも高めます。

しかし物語は、その事件を契機に合理的な謎解きの方向に反転し、前半
に紡がれた甘美な幻想が、余すところなく解体されていくことになります。


儚くも美しい幻想の裏側には、多くの人々の様々な思惑と妄念が複雑に
絡み合ったやるせない因縁話があり、その因果を解きほぐしつつ、個々の
事件の謎解きを積み重ね、 最終的に「何が起こっていたのか?」を開陳
していく、作者一流の真相提示のプレゼンテーションがすばらしいです。

そして、冒頭のシーンと照応され、現実と幻想が
二重写しになる結末は忘れがたい余韻を残します。




幻想と謎解きの甘美な二重奏 ★★★★★
樋口一葉の遺稿と思われる一枚の反故を偶然手に入れた
柱田真一は、その出所を突き止めるため、諏訪に旅立つ。

そこで真一は、長谷屋麻芸という女性に出会い、
二人は前世で恋人同士だったと告げられるのだが……。



本書は一葉の遺稿を巡る歴史ミステリ、あるいは輪廻転生という超自然的設定を
前提とした幻想恋愛物語というような当初予測しうる常道的な展開は見せません。

とある主要人物が毒殺されたことを転機に、物語は合理的な謎解きの方向に
収束していきますが、謎が解かれてもなお残る幻想の残滓に、曰く言い難い
余韻があります。


作中の事件のトリックをみてみると、男女の心中という究極の情愛と、
その裏に仕掛けられていた、きわめて即物的なトリックの対照の妙、
そして、毒殺殺人における大胆不敵な毒の混入方法が印象的です。

全編に揺曳する神秘的な雰囲気と、いかにもミステリらしい理知が
有機的に融合し、著者独特の味わいが生み出されています。


また、本書では、贋作にはどうしても見えない美術品が登場するのですが、
その制作者のひとりが、以下のような〈芸術観〉を開陳します。


  〈芸術は模倣から始まるなどと言いますね。わたくしは型から入って心を得たのです。
   (中略)ある意味では××はわたくしの肉体の中で、転生したと言えるでしょう〉


このように本書における「輪廻転生」は文字通りの
意味だけでなく、文化論としての含みもあるのです。



▼付記

 冒頭でさりげなく示されるあるモノが結末において
 最大の謎を氷解させる構成にはしびれました。