「オーディオ・コメンタリー」が貴重
★★★★★
DVDのレビューというと、大抵は「映画」の作品内容についての文章になりがちですが、本来
はDVDという「商品」の筈ですから、あえてDVD商品の特長である、音声特典の「オーディオ・
コメンタリー」にもこだわりたい。
『クレージー作戦 くたばれ!無責任』のオーディオ・コメンタリー、今回は坪島孝監督をゲ
ストに迎えて、映画評論家の佐藤利明氏を聞き手としているものですが、これは良かった!
絶賛です!
佐藤利明氏のコメンタリーというのを本商品で初めて聴きましたが、私が以前に聴いたDVD
『大冒険』『ニッポン無責任時代』等で別の人が担当したコメンタリーとは、これは圧倒的に
違います。違い過ぎる。日本映画のDVDコメンタリーには実にありがちなのですが、大抵の
聞き手役の人は、そもそもリスナーの存在をあまり意識していません(そう思われてもしょう
がないと思う)。DVDのコメンタリーは「残る」という前提があるにも関わらず、何と言って
るのか聞き取りにくいし、ラジオ番組ならともかく、ダラダラと中身のない話をされても困るわけです。
しかし佐藤氏は「坪島監督から話を聞き出す」という聞き手役としてのポジションをあくまでも守って
います。 完璧です。
肝心の内容は、坪島監督の生い立ちから、映画界に入った経緯、クレージーキャッツとの出会
い、アメリカ映画からの影響、ギャグの発想、映画監督としての苦労、そして『クレージー作戦
くたばれ!無責任』での具体的な舞台裏など、話題は多岐に渡ります。
このコメンタリーを文字起こしすれば、そのまま「映画監督・坪島孝」という立派な本になる
内容に近いのではないでしょうか。ですから現在、そうした本が出ていない限りは、研究者
は、本商品のオーディオ・コメンタリーは絶対に聴かなくてはなりません。貴重な記録です。
なんという早い方向転換
★★★☆☆
大映での2作(1962年)、そして東宝での無責任シリーズ2作(1962年)を受けて、もうここで(1963年)大胆な路線修正がなされているのです。ということはわずか一年の無責任シリーズだったというわけです。なんというペースの速さと仕事量でしょう。実質的にはもうここで、無責任という突き抜けたキャラクターとしての植木等は消えてしまったわけです。むしろ明らかにされるのはサラリーマンではなく、会社の経営陣の方こそ無責任だったという逆説です。そして結末はその経営陣の無責任さに社員が愛想を尽かすという結末になっています。日曜にはゴーストタウンとなっていた丸の内を全員が歌いながら行進していく最後の場面は印象的です。その後もたくさんのクレージー映画がおよそ10年近く作られるわけですが、ここから先はもう無責任というキャラクターは背景に退くことになるわけです。監督のオーディオコメントがついているversionがついており、これは当時の映画の撮影の背景や裏話が豊富に披露されており貴重な証言となっております。