桃山時代の絵画を知るにはうってつけの本です。
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桃山時代とその前後の時代の絵画を扱ったムックです。
オールカラーで一つ一つの図版が大きいですし、やはりこのシリーズは重宝します。
扱われている絵師は、狩野永徳・海北友松・長谷川等伯・俵屋宗達等。
監修者である狩野博幸氏が「作品と画家名の羅列と紹介のみで済めりとする教科書的記述は筆者のもっとも厭悪すべきこである」と書いているように、文字が非常に多いです!
それぞれの画家の生い立ちやその作品が描かれた背景等、読み応えのある解説がたくさん載せられているので、単に絵を眺めているだけではわからないことも知ることができ、本当に勉強になりました。
桃山時代の絵画に興味がある方は是非オススメします。
絢爛豪華な桃山絵画を沢山の図版を使用して丁寧に解説したムック
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監修者は近世日本絵画研究者の同志社大学文化情報学部教授狩野博幸氏です。解説の分担執筆者もその道のよりすぐりの研究者ですから、深い洞察力と分かりやすく詳細な解説は知的好奇心をくすぐるものでした。
7ページ以降に代表作を紹介された狩野永徳は、狩野派のまさに頂点ともいうべき人物で、そのスケールの大きさでみても安土桃山文化の特徴である絢爛豪華な装飾芸術の頂点を極めた人でありました。
36ページには、永徳最晩年の8曲1隻の国宝「檜図屏風」が掲載されています。「怪々奇々」と称えられる通り、遠近感を無視した現代絵画に通ずる大胆な構図で、そのデフォルメされた枝のうねりが戦国という騒乱の世の姿を象徴しているようです。
雄大な6曲1隻「唐獅子図屏風」も38ページで取り上げられており、永徳の気迫が直接伝わるような2匹の獅子です。
米沢市上杉美術館所蔵の有名な国宝「洛中洛外図屏風」も84頁から丁寧な解説がつけられています。約2500人もの人が描かれ、京都のお寺や名所、祇園祭や当時の庶民の生活が精緻な絵で描かれています。戦国の世における洛中や洛外の風景描写が映し出されており、我が国の至宝と言えるでしょう。
近年永徳筆として認められた4曲1双「洛外名所遊楽図」が誌上公開されています。90ページ以降に詳しく紹介してあり、描かれている宇治の平等院や嵐山の描写を眺めながら、永徳の描写力の見事さに驚いています。狩野永徳の20歳過ぎの作品だと言われていますが、早熟の天才です。
その他、大々的な展覧会が評判となっている長谷川等伯「松林図屏風」を始め、海北友松「飲中八仙図屏風」、俵屋宗達「風神雷神図屏風」など、天才絵師の素晴らしさを堪能できるムックだと思います。
有名どころの障屏画の大型図版が満載・戦国終焉期の資料としても
★★★★☆
永徳をはじめ等伯、宗達、友松など桃山期の華麗な作品群が大きな図版で多数収録。「唐獅子図」や南蛮風屏風の「泰西王侯騎馬図」など、誰でもどこかで見たことのある作品が必ず何点かあると思われる。この時期のメジャーな作品はほとんど障屏画なので、やはりこういった大きい画集がありがたい。特に等伯(長谷川派)や友松は現在単体での大きめサイズの本があまり見当たらないので重宝。江戸期の美術とはまた違ったカッコよさ。難をいえば部分の拡大写真に大きなスペースを取られて、作品の全体図が小さくしか掲載されていないケースが一部あること(別冊太陽のシリーズはこの本に限らず時々ある。雑誌だからか・・?)。ただこれはオリジナルがもともと大画なのでやむをえないのと、拡大も全4面中2面とか左右2枚組み中1隻を拡大、といった感じで作品のレイアウトそのものを損なう種のやり方ではないので許容範囲。風俗画系作品の解説にもかなり頁を割いており、当時の生活風景やファッションに興味のある方にはイメージを膨らませる一助になるだろう。洛中洛外図などは細かい地名の説明つきなので、京都観光の前後に参照してみると楽しいかも。論考は最近の研究結果を取り込んでいて興味深い。また狩野永徳と信長・秀吉のほか、等伯と利休、友松と斉藤利三の関係など、戦国最終期のこの頃には面白いエピソードや伝承が満載なので、歴史の好きな方にも読書や映画鑑賞、旅行等の資料として。いずれにしろ類似の本はあまりないので、内容もかっちりしており価格も安いし、気になった方にはとりあえずお勧め。