際だったことが書いてあるわけではない。小諸では、強いて言えば「懐古園」が有名だけれど、その半分は藤村に負っている。だから、この本に懐古園のことは地味にしか書かれていない。この本のようなスケッチが描ける地方はたくさんある。でも、実際、この本にもおもしろいことはたくさんあるんだよね。
今回、読んでみて、この地方の百年前の姿、四季の風物や年中行事、人々の姿を目の当たりにする思いがした。実は、その半分は、「週刊にっぽん川紀行」の創刊号「千曲川」(学研発行)と併せて読んだことに負っている。で、おもしろかった。ほぼ、百年に近い月日を隔てて、異同が見えるからで。
私は千曲川流域の旅を何度か試みてきたが、その度に、この本の記述のいくつかを思い出す。この地域の日常をリアルに描いているところは、紀行文としても優れているものだと思う。もちろん、このリアリズムは、読む人にいろいろな想いをもたらすはずで、それ故に、この本を読んで千曲川紀行をすると旅が奥深くなるにちがいない。とりわけ、観光地巡りやグルメ旅に飽き足らなく思う人に、これらの本を携えて千曲川の旅をしてみたら、とお勧めしたい。