デイヴ・ブルーベック・クァルテットは57年のディズニー曲集がヒットしたこともあって、その後、60年代にかけてソングブック物を次々と録音するようになった。リチャード・ロジャース曲集『マイ・フェイヴァリット・シングス』、あるいはウエスト・サイド・ストーリー曲集などがそれだが、本作もそうした一連の流れの中から誕生した作品。ここでは全曲、マット・デニスの曲を取り上げている。マットは渋いピアノの弾き語りで知られる人だが、本職はソングライターで、その作品数は1000を越えるとも言われている。
マットの作風は軽妙で洒脱、そして粋でユーモアのセンスにあふれているのが特徴だが、ブルーベック・クァルテットはそうしたマットの持ち味を殺すことなく、さわやかに演奏している。マットの曲中、もっとも有名なのはタイトル曲。本作でも一番の聴きものだ。最初ブルーベックのソロ・ピアノからスタート、ベースとドラムスが参加、最後にポール・デスモンドのサックスが加わる演出が実に洒落ている。(市川正二)
洗練の極み
★★★★★
最近ジャズの廉価盤が次々出ててうれしい。昔だったら、そうとう吟味しながら、買っていたものだが値段がどんどん安くなってきて、気軽にジャケ買いもできるようになってきた。これも中身とは無関係の美人ジャケだし。ジャケは音を表すという通り、非常にオシャレでエレガントな音になっている。
「テイク・ファイヴ」があまりにも有名なブルーベックだが、この「マット・デニス集」では彼のピアニストとしての洒落っ気のあるセンスが存分に楽しめる一枚となっている。もちろん盟友ポール・デズモンドも参加しており、彼ら独特の洗練された都会感覚は、かなりのレベルに達している。あと、マット・デニスの曲の良さも再認識させられた。キャッチーでありながら、下世話ではないスマートさが、実にブルーベックのサウンドにマッチしている。
たくさんありそうで、ここまで1曲1曲のクオリティが高く、オシャレな音はなかなか見つけられないものだと思う。
マットデニス集
★★★★★
マットデニス特集だ。それがぴったしきている。アップテンポのレッツ・ゲット・アウェイ・フロム・イット・オールや、ウィル・ユー・スティル・ビー・マインはブルベックのスィング感一杯だし、 エンジェル・アイズやザ・ナイト・ウィ・コールド・イット・ア・デイなんてデスモンドの魅力たっぷり。今でも、ブルーベックの中では一番好きなアルバムだ。
元祖イージーリスニング・ジャズ
★★★☆☆
ブルーベックはテーク・ファイブであまりにも有名だけど、サックスのデスモンドと並んで、ジャズ評論家には軽んじられているジャズメンの筆頭か。大衆受けしすぎ、軽すぎ、分かりやすすぎるというのがその理由だそうだ。アルバム数は100枚にならんとしているし、買い手の多くがジャズ・ファンじゃないのも評論家に嫌われる理由か?でも、いいじゃないの。軽く聴けるし、ここはひとつ難しい理屈は置いておいて、62年録音のこの「エンジェル・アイズ」「コートにすみれを」を楽しめばいい。デスモンドのサックスも例によって軽い。元祖イージーリスニング・ジャズ。恋人も喜ぶ(松本敏之)