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家族を「する」家―「幸せそうに見える家」と「幸せな家」

価格: ¥1,575
カテゴリ: 単行本
ブランド: プレジデント社
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   現代住宅に当然のように設置されているダイニング・キッチンは、戦後、公営アパート団地を建設する際に生まれたものだ。食事の場と就寝の場を分離させ、夫婦の寝室を独立させ、ダイニング・キッチンと後に登場するリビングルームは、戦後の住スタイルを方向づける革新的な提案であった。

   本書は、とかく焦点がぼやけがちな「家族論」を、「住まい」という目にみえる形に落とし込んで論じていく。戦後つくりだされた住空間が、夫婦や子どもにとってどのように機能しているのか、あるいは機能しなくなっていったのか。「精神科医K氏」との対話を通じて「会話」「女」「男」「子ども」「絆」「夫婦」「恋愛」など、8つの視点から模索する。

   処女作『王を撃て』では、「'74年入社」や「'87年入社」とだけ表示される人間たちを登場させ、また、芥川賞受賞作『運転士』では、自己を仕事と同化させてしまった地下鉄運転士を描いた。小説家である著者は、外部から与えられた要因によって個人が規定されてしまう滑稽で空疎な世界をつくりあげたが、本書もまた、はからずも「父」や「母」、「子ども」の役柄だけが抜け殻のように残され、個人の姿がどこにも見えない家族の現状を浮き彫りにする。

   アメリカでは、親に「なる」ための「ペアレンティング・プログラム」が実施されているという。「家族は『する』ものである。自然に『なる』ものではなくなった」とする著者の指摘は的を外していない。(中島正敏)

家を建てる前に考えておく事 ★★★★☆
 同感だったのは、最終章の最後の部分、『家族であり続けるには、哲学を持ち、意識して「家族をする」ことが求められる時代なのだと思う。』と言う箇所です。夫婦の心情の幅は、日本と欧米で違いがあり、『夫婦は、同じ部屋で寝なければ、離婚すべき』と言う部分には、同意できませんが、著者の危機感は理解できました。

 この本で取り上げている病的な家族は、決して特殊な例ではなさそうです。「現代家族の誕生」(岩村暢子著、2005年、勁草書房)や「家族と幸福の戦後史」(三浦展著、1999年、講談社現代新書)も合わせて読むと、危機的状況が良く分かります。家族とは何か、考え無しに家族を始めてしまうのは危険です。現代では、良く考えないまま、人並みである事だけを頼りにしていると、必然的に病的な心理状態になるのかもしれません。

 ましてや、家を買ったり、建てたりする時になっても、まだ「家族についての考え方」が、夫婦ですれ違ったままでは、とんでもない失敗作、無駄遣いになるかもしれません。
悩める人のための本 ★★★★☆
家族関係や家のことについて悩みを持たない人が読むと、「なぜそんなところにそんなにも力を込めるのだ」という意味不明さを全編通して感じると思いますが、悩んでいる人が読むと「まさにそういう所を考えたかった!!」と思う本だと思います。自分が遭遇しているもやもやした不安や違和感を語る手がかりを与えてくれます。

家の構造を通して(10年前の)現代日本の家族が構造的に抱えこんでいるゆがみ、歴史的に抱え込まざるを得ない歪みについて言及しています。それに気づいて(あるいは気づかないふりをしないで)思索するのは、やはり芥川賞作家の力なのかなと思います。我々がみんな投げ込まれている状況を把握するのは至難の業です。茹でガエルが自分が泳いでいる鍋に気づかないようなもの。

しかし、この本の結論を見て「ああ、そうだったのね〜」と安心する奴は誰もいないとも思います。「そんな答えで本当にいいのか!?」という、最大級に訳のわからん解決法を自信満々で示されて、読者はうっちゃられてしまいます。それが星を一つ減らした理由。

まあ、しかしそれは「語る言葉を教えてやったんだから、後は自分で考えろ」という、突き放す愛情であると好意的にとるのがよいでしょう。読み終わった後に、現実の苦悩に再び立ち向かって、自分の答えは自分で探さないといけないのだから。
未来の家庭は崩壊するか? ★★★☆☆
2000年に出版された本の文庫版です。

この本は、「家族の結びつきとは何ぞや?」という根本的な問題を採り上げています。

たとえば、広いリビングを通らないと子どもが自室へ行けない構造を作っても、「逃げるように通れば、それはほんの数秒のことであり、親が声をかけても、子どもが立ち止まろうという気持ちを持っていなければ、その効果は半減するだろう。」と語っている点は、意外と同じ意見を耳にしたことがなかったので、新鮮な印象を受けました。

この点は、マンションにありがちな「玄関側に個室、奥にリビング」という間取りに住んでいる人には朗報ではないかと思います。

「家族が住まいという空間なしに成立した時代などないと思う。」の次行に、「その一方、世界には引き裂かれた難民たちが『家族意識』だけでつながっている例もある・・・」と、家をなくした人々の家族の結束力についても言及しています。
また、携帯電話のマナーにも数行を割いている点からも、これが単なる”間取り”研究の本でないことを示しています。

ちなみに、「個室を知らない人々はプライバシーという感覚も知らなかっただろうから。」 は、19世紀以前のヨーロッパを前提とした話です。
独特の推論に辟易 ★☆☆☆☆
何かの本で推薦されていたので読んでみましたが、面白くない本でした。著者があたかも「自明」としている推論は理解しがたいものがありました。
たとえば、106ページ。「それ(住まい)がなければ、家族などすぐにもバラバラに解体されると言うのである。(中略)家族が住まいという空間なしに成立した時代などないと思う」 戦争、大震災、火災で家を失った人は少なくないと思うのですが、多くの家族がバラバラになったのでしょうか? それを裏付けるものを示して欲しいですね。
112ページ。「個室を知らない人々はプライバシーという感覚も知らなかっただろうから」 日記や手紙を他の人に読まれたくないという感覚はプライバシーではないのでしょうか? 個室がなくてもこんな感覚を持っている人は多いと思います。
もう少し読者に理解できるように説明しようとする姿勢があると良いのですが。読み終わって何か得たものがあったろうかと自問しました。
分析がおもしろい ★★★☆☆
芥川章受賞作家の本です。前作の著書「「家族をつくる」ということ」の続編です。
最初の本の発表以降、住まいと家族について講演したりしていたようです。
内容的には、ちょっと物足りないですが、なるほどと思う部分もありました。
日本人は家探しをする際にリビングと子供部屋を重視しているが、欧米人は夫婦の寝室を重視している。
子供部屋のルールを決めずに与えるから親が子供部屋に入れなかったり、引きこもりが起こる原因にもなるようです。
また、郊外に住むというのは、現状では流行らない形態になってきているというのも意外でした。
また、リカちゃん人形に傾倒した世代と、カントリーブームにのっている世代の分析はおもしろかったです。
まだ、子供が小さいので実感はわかないですが、家族のまとまりの難しさを感じました。
本当に家族をする意志が強くないとバラバラになってしまうのかもしれません。
食事中に携帯電話を食卓に置いて、家族の団らんが中断されるというのも時代の変化を感じます。