心の楽園でございます。
★★★☆☆
森鴎外のお嬢様がお書きになった伝説のホモ耽美短編集をつひに読みました。青ざめ、悲鳴を上げ、悶絶しながらの読了で疲労しました。すごい世界です。別にエロくはありません。高等遊民のハイソ男と永遠に生活力ゼロが保証されているような美少年が浪漫している愛の王国なんでございます(しかしこの美青年と美少年どもを「お前らちゃんと働けぇ!!」蹴り上げたくてウズウズし続けたワタシは何なのだろう。あ、単にお嬢様歴ゼロ年のビンボー人か)。キャラのネーミングからして「ここは何処〜?」ワールドです。これほど赤面なしに見せられる西洋趣味の耽溺も今となってはいっそ潔いというか、突っ込む方が単なる無粋者になるような気がする。入れない読者は容赦なく蹴り出される世界ですが、森茉莉が文字の力で愛と美の楽園を作り出し、勝利している、そういう小説群だと思います。森茉莉を絶賛した三島由紀夫と鷹揚に笑って肯定した山本夏彦の度量の広さが素晴らしい、とも思いました。ともあれ、こういう楽園には「批評」じみた言辞なんて不必要なのではないかしら。「旧仮名で読むべし」というレビュアーさんがいらっしゃいますが、正しい。現代仮名遣いでスルスル内容を入れてしまうと頭がガンガンします。という訳で、国語力と耽美力(?)に自負のある方、どうぞ。
旧かな遣いで読むべきです。
★★★☆☆
思春期に読んだならいざ知らず、エエ年こいての初読は、かなり辛いものがありました。
子供に、騎士と書いて「ナイト」と読ませるヘンな名づけする人には違和感無いのかもしれませんが、「それでパウロと読ませるか〜」みたいなルビのオンパレード、西洋への憧れが、痛かった。けれど、ボーイズ系嫌いの私でも読み進むことのできる、不思議な力がある。
考えてみたら、作者を「マリイ」などと呼んで西洋かぶれにしたのは、鴎外その人。森茉莉はそんな父親に育てられたので、こういう世界が自然だったのでしょうね。
後日、初版を手に入れて再読してみると、「いたたたたた」に映った世界があら不思議、重厚な耽美世界に変化していました。思想性も物語性もくそくらえな徹底的趣味耽溺。東京なのに、おパリなたたずまいの街。どなたかも書いておられましたが、とりわけ、食べ物へのこだわりは相当なもの。かなり不思議な世界です。
個人的には、森の好む(?)美少年の描写が、カマっぽいのが好みに合いませんでしたが、エロティシズムとは程遠い、昨今の身も蓋もないエロ描写と一線を画しているのは事実です。
乳首の周囲を「乳暈」と呼ぶのは医学書からの直訳で、比較的新しい「日本語」だったそうです。本作品もこの単語が使われています。医者を父に持つハイカラな森茉莉らしいような。どうでもいい話ですが。
三島などもそうですが、現代仮名遣いはフラットで趣に乏しい。できれば旧かな遣いのものをおすすめしたいので星は3つです。
ボーイズ・ラブの先駆者
★★★★★
頑なまでの美意識、独特の禁欲的で透明な文体、エロティックなホモ・シーンなど。こういう世界が好きな人にはたまらない内容である。流行のやおい小説やボーイズ・ラブの先駆者といえるかも。
仏蘭西映画のような美しさ
★★★★★
4編中3編が同性愛ものですが、別に「ゲイ」という部分に重きはなく、
とんでもなく綺麗で贅沢で現実離れした、惑溺しそうな恋愛小説集です。
森茉莉の耽美ものは、好き嫌いが激しく別れるかもしれません。
句読点の打ち方や漢字の使い方が独特で、そこも好みの別れるところでしょうが
ちょっと真似したくなるような魅力があります。字面の美しさはこの作者ならではです。
また、この人は自他共に認めるすごい食いしん坊だったらしく、食べ物の描写が
上手でそこも魅力です。美男の主人公がレストランで恋人の美少年のためにあつらえたメニューが
「鶏の清肉汁(コンソメ)と冷肉(コオルドビーフ)にちさのサラドゥ、
乾葡萄入りの温かいプディングに、果物と珈琲」・・・何でもないようで、すごく美味しそうでしょう?
美しい表現
★★★★☆
森茉莉自身の美に対する感性に、とにかく感心してしまいます。
そして、なんといっても魅力的なのは登場人物です。
知らない間に恋人以外の危険な男に魅かれる少年、愛しい人を他人に獲られてしまう前に自ら命を絶つ男、などなど・・・。
独特な雰囲気を是非味わってください。