鯉浄土
★★★★★
どれも生命や肉体に関する短篇集。ギリギリ日常的なところにありながら、そこから沸き上がってくる幻想の確かさ。ドライでありウェットな著者の語り口に魅了される。その中の一篇「科学の犬」。主人公に飼っていた犬が失踪し、やがて野犬収容所で処理されていたこを知る。帰路、不思議なことに信号はすべて青に変わる。運転する後部座席に光るモノがある。早く家に帰ろうと促してしているように。実験用にされる犬、煙草を無理矢理吸わされ続ける犬のエピソードなどを交え、分子レベルで「猫」も「岩」も同じ、組成を変えただけなのだ、という割り切りが反対に哀切なものとなる。どれも好短篇。ムラキー(村田喜代子)・ワールドにはここから飛び込んでも構わない。