冷房(あるいは暖房)が効いた静かな部屋の内側に身を置き、窓を通した向こう側に眺める活気溢れる東京の街。人間の平均的な受容度を遥かに越えるスピードや変化がそこに溢れかえっていることも珍しくありません。その性急な流れからほんの少し距離を置いて、突き放した気持ちで街を眺めている自分。いわく言い難い不均衡の中にいるわが身を感じて心にさざなみが立ちます。
この写真集はそんな体験を想い起こさせる一冊でした。
窓枠とその向こうに広がる景色は、額縁と絵画の関係にあるのでしょう。絵画鑑賞の際に額縁はほとんど意識の埒外にあるものですが、この写真集に掲載された作品群では、窓枠とその手前側に広がる空間、つまり自分が身を置いている場所にも否が応でも心が向く仕掛けになっています。
変化に富む東京の街並みの手前に、その変わり身のはやさを歯牙にもかけずマイペースで歩む静空間。
そして景色を眺めている自分が確かにそこにいることを強く感じます。奇妙に心が引っ掻かれました。