読みずらい
★★★☆☆
網羅的な内容であるのはいいとして、あまりにも網羅的なために前半に登場する人物の説明やエピソードが詳細なのに比べて後半、特に日本の部分にかんしては羅列のようでガッカリした。こういった内容について知識のある人や興味のある人ならばともかく、門外漢が普通にノンフィクションとして読もうとすると、その読みにくさが障害となる。どうして普通の「オカルト本」のような文章で書けないのか、と不満も残るし、アカデミックなアプローチが自分の期待とは異なっていたのかもしれない。
地図、イラスト、写真など図画を一切もちいていないのも門外漢には親切とは言えまい。降霊会やスレートに書き出される文字など、どういったものなかを一度もヴィジュアル的に読者には説明しない閉鎖性はどうかと思う。
作家である著者が独特の文体を持っていることに異を唱えるつもりはないが、作家がノンフィクションを書く際には一般的なノンフィクションの文法を理解した上でお願いしたいと、一読者として思いました。カポーティの『冷血』のような完成度と比べるべきではないのかもしれないが、座学で知った内容と、自分が見聞きした内容とが混在し、アウトプット以前の情報の整理や提示法が混乱しているとも言える。専門性や知識が問題ではなく、本としてのコンセプトや方向性に問題があったのではなかろうか。
証明なくしては何者をも容認せず アプリオリーに何者をも否定せず
★★★★☆
1960年代の初め、超常現象や超心理学(パラサイコロジー)のちょっとしたブームがあった。1961年に出版された宮城音弥著「神秘の世界 ―超心理学入門―」(岩波新書)は小冊子ながら当時の超常現象に対する概念を整理する上で決定版といえた。本書巻末に付された年表を見ると、1963年は大谷宗司氏らによる「超心理学研究会」が設立された年にあたる。
それから半世紀近くたった現在、三浦氏による本書が出版された。宮城氏の著書は、超常現象に対する科学的な取り組みとして、米国デューク大学のライン教授らの研究をベースとしていた。本書は、過去の霊能者の紹介などについては、宮城氏の著書に比べて特段の新しさはないが、これらの現象を文明史的に論じているところが素晴らしい。このような超常現象は1800年代半ばに米国に現れて英国で特に研究された。なぜこの時期にこのような現象が起ってきたかは、勃興しつつあるダーウィニズムや唯物論に対して従来のキリスト教が対応できなくなってきたことが基盤にあるようだ。欧米のスピリチュアリズムは、単に心霊現象ブームといったことではなく、また科学的な衣を付けた超心理学で割り切れるものではないことを著者は教えてくれる。
表題のフレーズは、宮城氏の上述著書の冒頭に記されたものであり、私事ながら「アプリオリーに何者をも否定せず」を処世訓にしてきたものである。しかし、近代スピリチュアリズムの理解には、科学だけでなく、文明史的な視野が必要なことが痛感された。巻末に付された年表はその点で大いに参考になる。
待望の一冊でした
★★★★★
スピリチュアリズムについてあれこれ議論しようとする人たちにおすすめです。
江原啓之氏、麻原彰晃、細木数子氏、霊感商法の違いがわからない人には特におすすめです。
具体的な内容については他の方のすばらしいレビューがありましたので
私はこれくらいです。
心霊研究史入門
★★★★★
人間の個性は死後も存続し、この世とあの世とは交信が可能である、という基本的前提にもとづく近代の霊的思想・実践である〈スピリチュアリズム〉の通史を、日本の作家が平明に書き綴った本である。主眼は、スピリチュアリズムから派生した欧米の心霊科学の展開にあるが、それに加え超心理学(いわゆる「超能力」研究)の流れや、福来友吉や浅野和三郎などによる日本の心霊科学史に関しても、要をおさえた説明がある。索引も充実しているので、この分野の諸事情に関心のある向きには非常におすすすめできる。
ハイズヴィル事件という決定的なきっかけから、おおよそヴィクトリア朝時代を通して心霊研究がいかなる大発展を遂げてきたのか、その過程を著者は、当時の英国の覇権や近代的な科学や技術の飛躍的な進化(とくに鉄道の開発や電信機の発明が重要)、あるいは社会主義という革新思想との連動や、ダーウィニズムや俗流唯物論といった反宗教的な思想への対抗意識などの時代背景に言及しつつ、詳しく再現していく。特に、当時はまだ新しい職業であった「科学者」たちが、その新たな社会的役割(世界のあらゆる現象の説明者)を果すべく「霊」の調査・研究にも果敢に挑んでいった姿を、克明に描き出していく。心霊研究はあくまでも近代科学の申し子だ、という事実が強く印象づけられるところである。
著者はまた、スピリチュアリズム・心霊研究の擁護者として、「霊」の世界の実在や、それとのコミュニケーションをとることができる能力者たちにもっと共感を抱いて欲しい、と本書を通して示唆し続け、と同時に、厳密な科学的検証をふまえずに安易に「霊」を信じることには懐疑的である。このような著者のスタンスは、俗流の科学(合理)主義に毒されて未知の世界に対する想像力を失ってしまった人間にも、また昨今のスピ現象ブームを何ら批判的な意識も持たずに受用してしまう人々にとっても、学ぶところが大だろう。