イメージの連鎖に圧倒
★★★★★
知人のすすめで表題作である「葬儀の日」を読みました。
作品中の「泣き屋」と「笑い屋」を始めとする、
「私」と他者との関係性の有り様は、
若き日の作者が捉えた茫漠とした世界の有り様なのでしょうね。
一見唐突に思える、脈絡のない言葉が
次々と意味を帯びながら連鎖して行き、
いつの間にか「泣き屋」の精神世界に引きずり込まれ、
彼女の感覚を通して、今まで感じた事のなかった
違った世界の有り様を突きつけられたような
そんな不思議な感覚にさせてくれる作品でした。
松浦文学の初期作品
★★★★☆
松浦文学の不思議な世界を覗いたような気がします。
「葬儀の日」の中にある、大局的な自分の生ける時も死ぬ時も常に隣り合わせ、対岸のように描かれています。
個人的には「肥満体恐怖症」が面白かったです。あんなに憎んでいた肥満体の母親を実は愛していた……という結末なのですが、ここまで行き着く流れが面白いのです。夢中になって貪りました。
「肥満体恐怖症」礼賛
★★★★☆
「肥満体恐怖症」が好きです。何度読み返しても飽きない快作です。
倉橋由美子の「貝のなか」と読み比べてみるのも一興かも。
表題作には、私は魅力を感じません。
葬儀の日
★★★★★
泣き屋と笑い屋、対照的に見えるけれど、実は内はおんなじ。アイデンティティの崩壊と同一性に激しく混乱する少女をこれぞ純文学!的タッチで描いた「葬儀の日」ももちろん素晴らしいのだけれど、個人的にお勧めは「肥満体恐怖症」。
母親が肥満だったせいで、肥満している女性を生理的に嫌悪するようになってしまった女子大生。が、大学に入ったら、なんの因果か、デブの上級生三人と同室の寮に放りこまれ、しかもねちねちと嫌がらせをされるという、設定としては完全にギャグ(笑)。しかし、物語がすすむにつれ、しだいに主人公のマゾっぽい性癖が明らかになっていく、という、なんともすごい話。
文章もいいです。
「ロースハムのブロックを思わせる手が差し延べられた。触れるとぬるぬるするのではないかと案じつつも、握手に応じた。掌は脂ぎってはいなかったが妙に熱く、獣じみた力で唯子の手を握り締めた。唯子は窒息しそうになった。」
さらっとこういう文章を書けるのは、いいですね。
人間関係の捉え方
★★★☆☆
とりあえず、著者の人間関係に対する捉え方に強く惹かれるものがある短編集(中編集か?)である。どうも人間関係というものを支配するもの支配されるもの、極論を言ってしまえばSとMの関係として解釈しようとする傾向があるように思う。私は谷崎潤一郎の『痴人の愛』に同じような感触を得たのだけれども、他の人はどう思うだろうか?
とりわけ、表題作の『葬儀の日』はあらゆる点で素晴らしい。分量的にも過不足なく、無駄が一切なく、強引なところもない。素晴らしいではないか。
ただし、他の二作品はこけおどし感があったような気もしないではない。まあ、それが残念と言えば残念だが、『葬儀の日』だけのために買うのも一興だろう。それだけで元は取れる。