フーコーを知るための補助ツールとしては最適のシリーズ
★★★★★
「思考集成」の文庫版。この巻に限らず、このシリーズはフーコーという思想家を良く照らし出す優れた企画だったと思う。思想物の補助ツールは難しく、得てして偏ったり、紋切り型、先入観のパターン化を現物と摩り替えるなど、碌な働きをしないが、このシリーズは本人が登場して語り、または著述した小片の集成なので、悪い作用はしていない。フーコーが活躍した時代には、既に思想の出版物が出版産業の中で駆け巡る時代であったため、その機能を逆手にとって、プラスに作用させたと思える。本巻では、「狂気の歴史」の周辺を巡る企画になっているが、フーコーのデビューの分野だけに、たいへん分かりやすくフーコーのエッセンスが出ていると思う。渡辺守章らとの鼎談は、非常に興味深く、哲学を「選択原理」の場と規定する、フーコーの哲学観が明示され、思想や文学の大局に触れる発言もあり刺激的だ。個人的には、彼のヘーゲル観が語られるところが非常に興味深かった。彼をポスト構造主義の一派とし、反ヘーゲルの思想家と見立てていた日本の80年代〜90年代の哲学案内文献の軽薄さには改めて呆れ返る。「心理学の歴史」など、「知」へのスタンスが明示される小編も多い。彼の思想の性格上、衣鉢を継ぐものはありえないと思うし、それだけユニークな思想家だったと思うし、自分には、ハイデガーやサルトルよりも、現代を総体的に語りえた人だとも思う。時々、戻ってきて読みたくなる作家だ。