同系統の本に詳しい人に言わせて見れば内容的には、夏目房之介氏の著作と重なるところはかなり多いようですが、四方田さん的な人文科学系インテリ言語に慣れた人にとっては夏目さんのそれとたとえ指摘が同類のものであったとしても、考え方として、けっこう理解がしやすいかもな、という感じがしました。
漫画の愛好家である四方田氏が本当に「本気で」体系的に論じることを試みている一冊なので、そういうのに多少なりとも興味がおありのかたは読んでおいて損のない一冊だと思います。
ただ、難点をあげるとすれば、――これは長所でもあるのですが、発想が記号論とかの私があまり好きになれないような点までひきずっていることで、例えば「のっぺりとした鼻」が登場することと「時代がのっぺりすること」をなんの根拠もなく繋げて論じてしまうような感覚なんかっていうのは私には少し受け容れがたい種類の論じ方でした。