娼婦との揺らぐ人間関係を描いた「驟雨」をおもしろく
読んだ。
身につまされる思いがする。娼婦だったときには心を探
ることなく、他愛のない会話を繰り返すのだけれども、
相手への思いが次第に募り、一人の娼婦が「固有名詞」を
持つにいたる。
増していく探りを入れるような会話、相手を思う心。
それにつれて、生じてくる嫉妬心とそれに抗う自我。
主人公の繊細な心の動き、映像が目の前に浮かんでくるよ
うな風景描写に心を打たれる。
「薔薇販売人」まずタイトルが刺激的だ。そして物語はまるで演劇を見るようだ。小道具も揃っているし、冒頭の住宅の茶の間を庭先からのぞき込むシーンをセットとした舞台にぴったりだ。
「夏の休暇」は短編映画といった趣だ。気まぐれな若い父親に引き連れられた息子と、そこに絡んでくる女性の関係が、夏の海辺を舞台として演じられている。ノイズの入った色褪せた画面で見る、映画のシーンのようだ。
「漂う部屋」ではサナトリウムという閉じた社会で、それぞれに肉体的な症状・制限がある者たちが、精神的にも症状や制限がかかったような状態になっている様子がもの悲しく、ときに滑稽だ。
著名な表題作のみならず、吉行氏のいろいろな側面を感じられる作品集だ。特に「薔薇販売人」「夏の休暇」は映像に訴えるものがあって気に入った。